スマートフォンとテレビが心に与える影響

メディアの特性、利用形態、コンテンツの種類、そして個人の年齢層によって明確な違いがあることが、多くの研究から示唆されています。

1. 相互作用性の違い(能動的 vs. 受動的)

ここが最も大きな違いであり、心の状態への影響を左右する重要な要素です。

スマートフォン(能動的・双方向的利用):

根拠: スマートフォンは、SNSでの発信、ゲーム、情報検索、コミュニケーションなど、ユーザーが積極的にコンテンツに干渉し、双方向のやり取りを行う「能動的」なメディアです。

心の与える影響:

ポジティブな側面:

社会とのつながり: 特にSNSを通じたコミュニケーションは、遠隔地の友人や家族とのつながりを維持し、孤独感を軽減する効果があります(Compass UK)。

情報とサポートへのアクセス: メンタルヘルスに関する情報やサポートにアクセスしやすくなり、 coping strategy(対処法)を見つけやすくなる可能性があります(Compass UK)。

学習とスキル習得: 教育的なアプリや動画を通じて、新しい知識やスキルを習得する機会を提供します(メトキッズデイケア)。

ネガティブな側面:

依存症と不安・うつ: スマートフォンへの過度な利用(特にSNSやゲームアプリ)は、依存症につながり、不安やうつ症状を悪化させる可能性が指摘されています(あらたまこころのクリニック、Butler Hospital)。ドイツの研究では、スマホ利用を1日1時間減らすだけでメンタルヘルスが改善するという結果も出ています(DM-net)。

他人との比較と自己肯定感の低下: SNS上の「完璧」に見える他人の生活との比較により、劣等感や自己肯定感の低下を招きやすくなります。特に若年層で顕著です(あらたまこころのクリニック、Compass UK)。

睡眠の質の低下: 画面から発せられるブルーライトがメラトニンの分泌を抑制し、睡眠リズムを乱すことで、不眠や睡眠の質の低下を引き起こします。これにより、精神的な不安定さが増す可能性があります(KID ACADEMY、Stanford Center on Longevity)。

集中力・記憶力の低下: 絶え間ない通知や情報の洪水が脳に過剰な刺激を与え、集中力や記憶力の低下につながる可能性があります。東北大学の研究では、紙の辞書使用時と比較してスマホでの検索時に前頭前野の脳活動が低いことが示されています(note、Optography)。

FOMO(Fear of Missing Out): 他の人が楽しんでいることを見逃すことへの不安が、継続的なスマホ利用を促し、不安感につながることがあります(Butler Hospital)。

サイバーbullying: ネットいじめの被害に遭うリスクがあり、深刻な心理的苦痛を引き起こします(Compass UK)。

能動的利用と受動的利用の影響: ソーシャルメディアの「受動的利用」(ただコンテンツを閲覧するだけ)は、つながりの感覚の低下やストレス増加につながることが研究で示されています。一方で「能動的利用」(投稿、コメントなど)は、つながりやコミュニティ感を育む可能性がありますが、共同反芻(co-rumination:ネガティブな問題について繰り返し話し合い、ネガティブな感情に焦点を当てること)につながる場合もあります(Holistic Behavioral Solutions、ScholarWorks@UARK)。

テレビ(受動的利用):

根拠: テレビは基本的に、番組を見るという「受動的」な形態で消費されるメディアです。ユーザーがコンテンツに直接的な影響を与えることは稀です。

心の与える影響:

ポジティブな側面:

リラックス効果: 特定の研究では、見慣れた番組(再放送など)の視聴は、脳が安心して情報を処理できるため、リラックス効果をもたらすことが示唆されています(人民日報)。ある調査では、テレビを見ている人は52%リラックスしたと感じる可能性が高いと報告されています(The Media Leader)。

情報提供・娯楽: 受動的ながらも、ニュースやドキュメンタリーから情報を得たり、娯楽番組で気分転換を図ったりすることができます。

ネガティブな側面:

脳の非活性化: テレビをただ受動的に見ている間、脳の高機能な活動(分析、推理など)が停止し、視覚皮質は活発でも、脳が「働いていない」奇妙な状態になると指摘されています。これは、脳が情報を大量に取り入れるが処理しない状態であり、完全な休息にはならないとされます(人民日報)。

集中力の低下: 集中力を要しない「受動的娯楽」であるため、長時間の視聴は集中力を鍛える機会を奪い、普段の集中力低下につながる可能性があります(樺沢紫苑)。

運動不足と身体的影響: 長時間のテレビ視聴は、運動不足や座りっぱなしの生活につながりやすく、これが間接的に精神的健康に影響を与える可能性があります(保健指導リソースガイド)。

睡眠への影響: 寝る前のテレビ視聴も、スマートフォン同様にブルーライトの影響で睡眠サイクルを乱す可能性があります(KID ACADEMY)。

2. コンテンツの特性と影響

スマートフォン:

多様性・パーソナライズ: ユーザーの興味関心に合わせてパーソナライズされたコンテンツが提供されやすく、情報の偏りやフィルタバブル(自分と似た意見ばかりが表示される現象)が生じやすいです。これにより、特定の情報に過度に触れたり、極端な意見に触れたりするリスクがあります。

SNSの即時性・拡散性: 炎上やデマの拡散、誹謗中傷などが瞬時に行われる可能性があり、被害者の精神に深刻なダメージを与えることがあります。

テレビ:

マスコンテンツ: 一般的に、より広範な視聴者層を対象としたコンテンツが多く、多様な視点や情報に触れる機会も提供されます。

受動性ゆえの安心感: 即時的な反応を求められないため、精神的なプレッシャーが少ない傾向があります。

3. 年齢層による影響の違い

子ども・青少年:

スマートフォンの影響: 脳が未発達なため、過剰な刺激に弱く、脳の構造変化(大脳皮質の菲薄化など)や認知機能(記憶、集中力、言語、思考)の発達に悪影響を与える可能性が指摘されています(Optography、Stanford Center on Longevity)。特に、うつ病、行動障害、ADHD症状との関連が強いという研究結果もあります(ケアネット)。

テレビの影響: 長時間のテレビ視聴も集中力や社会性の発達に影響を与える可能性がありますが、親との対話の時間が十分にある場合は、言葉の獲得への影響は少ないというデータもあります(すくコム)。

成人:

スマートフォンの影響: 睡眠の質の低下、集中力の低下、人間関係の希薄化、孤独感の増加、SNSでの比較による自己肯定感の低下などが問題となります。

テレビの影響: 長時間視聴による認知症リスクの増加(特に運動習慣のない人)、脳の過度なリラックス状態による能動的思考力の低下などが指摘されています。

まとめ

スマートフォンとテレビは、共に「スクリーンタイム」という共通点を持つ一方で、その利用形態(能動的 vs. 受動的)、提供されるコンテンツの特性、そして社会的な側面において、心に与える影響に明確な違いがあります。

スマートフォンは、その双方向性と社会性が、ポジティブなつながりを提供する一方で、依存性、SNS疲れ、自己肯定感の低下、睡眠障害、集中力低下といった、より直接的で多岐にわたる精神的リスクをはらんでいます。特に若年層や発達期の脳にとっては、その刺激の強さと即時性が悪影響をもたらす可能性が高いです。

一方、テレビは受動的なメディアであり、限定的なリラックス効果が期待される一方で、脳の能動的な活動を抑制し、長時間の視聴は身体活動の低下や認知機能への影響を及ぼす可能性があります。しかし、スマートフォンに比べて、他人との比較や即時的な人間関係のプレッシャーといった要素は少ないと言えます。

重要なのは、それぞれのメディアの特性を理解し、利用時間だけでなく、利用方法、利用するコンテンツ、そして利用する際の精神状態を考慮した「健全なスクリーンタイム」を意識することです。ネット依存傾向に日常でも誰にでも起こり得る社会的問題であり特定の人の嗜好に依存しません。わかっていてもという入口から生活を変えてしまう可能性があります、武蔵中原駅前、中原こころのクリニックでは武蔵小杉駅から徒歩20分、武蔵新城駅からも徒歩15分程度であり溝ノ口(溝の口)からもバスや車で10分以内の立地です。川崎駅からもバスで一本であり南武線も乗り換えなしの16分の立地にあります。精神科専門医、心療内科医がかかりつけ医として高津区、中原区を中心とした訪問診療と外来通院治療を行っております。中原こころのクリニックで問題点を共有し認識することから元の生活を取り戻していきましょう