学習障害(限局性学習症)と知的障害の違い:精神科医の視点からの解説
学習障害(限局性学習症:Specific Learning Disorder; SLD)と知的障害(Intellectual Disability; ID)は、ともに学習面での困難を伴いますが、その根底にあるメカニズムと診断基準において明確な違いがあります。精神科医は、これらの違いを詳細に評価し、適切な診断と支援に繋げます。
1. 知的障害(Intellectual Disability; ID)
知的障害は、発達期に生じる全般的な知的機能と適応機能の有意な障害を特徴とします。
【診断の裏付け】
精神科医は、知的障害の診断において、主に以下の2つの領域を評価します。
知的機能の障害(IQの低下):
標準化された知能検査(例:WISC-IV, WAIS-IVなど)を用いて測定されます。
一般的に、**IQが70以下(平均より標準偏差2つ分以上低い)**であることが診断基準の一つとされます。これは、単に「勉強ができない」のではなく、推論、問題解決、計画、抽象的思考、判断、学習(学業的な学習や経験からの学習)といった広範な知的領域に困難があることを示します。
裏付け: 国際的な診断基準であるDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)やICD-11(国際疾病分類第11版)では、知的機能の評価が必須とされています。
適応機能の障害:
日常生活、社会生活における概念的、社会的、実用的な適応機能の困難さを評価します。
概念的領域: 読み書き、計算、記憶、問題解決、一般的な知識の習得など。
社会的領域: 対人関係、コミュニケーション、社会的判断、他者の感情理解など。
実用的領域: 身の回りの管理、金銭管理、仕事、交通機関の利用、健康・安全の管理など。
これらの適応機能の障害は、支援がなければ年齢相応の社会的な要求を満たせないレベルであることを意味します。
裏付け: 知能検査の結果だけでなく、保護者や教師からの情報、適応行動尺度(例:Vineland Adaptive Behavior Scales)などを用いて多角的に評価されます。IQが高くても適応機能に著しい障害があれば診断されることは稀ですが、両者が連動して障害されることが多いです。
【精神科医の視点】
知的障害の診断では、知能検査の結果だけでなく、本人の発達歴、現在の生活状況、家庭や学校での適応状況を総合的に評価します。単に知能指数が低いだけでなく、それが日常生活や社会生活にどれだけ影響しているかが重要視されます。また、他の精神疾患(例:自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症)との合併も高頻度に見られるため、鑑別診断も慎重に行われます。
2. 学習障害(限局性学習症:Specific Learning Disorder; SLD)
学習障害は、全般的な知的機能には問題がないにもかかわらず、特定の学習領域(読み、書き、算数)において、著しい困難を抱えることを特徴とします。
【診断の裏付け】
精神科医は、学習障害の診断において、以下の点を特に重視します。
平均以上の知的機能:
知能検査の結果、**IQは正常範囲内(一般的にIQが75〜85以上)**であることが前提となります。つまり、他の学習領域や非学業的な領域(例えば、会話、スポーツ、芸術、社会性など)では年齢相応か、それ以上の能力を示すことが少なくありません。
裏付け: 知能検査で全般的な知的能力が高いことが確認されながら、特定の学習領域での成績が著しく低い、あるいは習得が極めて遅いことが診断の根拠となります。
特定の学習領域における困難:
DSM-5では、以下のいずれか、または複数の領域に困難が見られます。
読字の困難(ディスレクシア):
正確または流暢な単語の読み(例:文字と音の対応が難しい、単語を区切って読むのが困難)。
読んだ内容の理解。
裏付け: 標準化された読字検査で、年齢や学年、知能レベルに比して著しく低い結果が出ることで確認されます。音韻処理能力の弱さが指摘されることが多いです。
書字表出の困難(書字障害):
正確な綴り(スペル)。
正確な文法と句読点の使用。
文章構成の明確さまたは整理。
裏付け: 標準化された書字検査や、筆記課題の評価により、書字の流暢性、正確性、構成力に困難が見られます。
算数の困難(算数障害):
数の感覚(数や量の概念の理解)。
暗記による算数の事実(例:九九)。
正確または流暢な計算。
正確な数学的推論。
裏付け: 標準化された算数検査で、年齢や学年、知能レベルに比して著しく低い結果が出ることで確認されます。
困難の持続性と学業成績への影響:
これらの学習困難が少なくとも6ヶ月以上持続し、学業成績や日常生活、職業的機能に著しい支障をきたしている場合に診断されます。
裏付け: 学校での成績、学習の遅れに関する教師からの報告、保護者からの情報などが考慮されます。
他の要因によるものではないことの除外:
視力や聴力の問題、他の精神疾患(例:注意欠如・多動症、自閉スペクトラム症)による影響、不適切な教育環境など、他の要因で学習困難が説明できないことを確認します。ただし、SLDと他の精神疾患が合併することはよくあります。
【精神科医の視点】
学習障害の診断では、知的な潜在能力があるにもかかわらず、特定の学習スキルが期待通りに伸びていない状況を慎重に評価します。「努力不足」や「怠けている」と誤解されがちなため、早期に正確な診断を下すことで、本人や周囲の誤解を解き、適切な学習支援や教育的配慮に繋げることが非常に重要です。脳機能の微細な偏りが原因と考えられており、特異的な介入が効果的です。環境や生育速度を考慮したうえで他の発達障害との鑑別や二次性の精神障害の有無が現在の問題となっていないか中原こころのクリニックでは治療の柱として考えております。また、必要な公的扶助におきましては行政とも連携しながらご本人さまの支援となりえるか考慮しながら環境作りに配慮していきます
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