1. 幻聴(Auditory Hallucinations)と精神疾患
幻聴は、実際には音源がないにもかかわらず、声や音が聞こえる知覚体験であり、特に精神疾患の陽性症状として現れます。
根拠と具体例
統合失調症:
特徴: 統合失調症の最も特徴的な症状の一つであり、患者の約70%が幻聴を経験すると言われています。幻聴の内容は多様で、自分の考えや行動を批判する声、命令する声、会話する声(対話性幻聴)、または単調な音(要素性幻聴)などが挙げられます。
脳科学的根拠:
ドーパミン仮説: 統合失調症の幻聴は、脳内の神経伝達物質であるドーパミンの過剰な活動が関与していると考えられています。特に、聴覚情報処理に関わる脳の領域(側頭葉など)におけるドーパミン系の異常が指摘されています。抗精神病薬がドーパミン受容体をブロックすることで幻聴が軽減されるのは、この仮説を支持する根拠となります。
聴覚ガンマオシレーションの低下: 東京大学医学部精神医学教室の研究(2020年)では、精神病ハイリスク群や統合失調症発症早期の患者において、音を聞かせた際に脳波信号が特定の周波数(40Hzのガンマ帯域)に同調する「聴覚ガンマオシレーション」が低下していることが報告されています。この低下は、幻聴症状が強いほど顕著であり、神経細胞の抑制性信号と興奮性信号のバランスの乱れが幻聴のメカニズムに関与している可能性が示唆されています。
自己と他者の声の区別困難: 幻聴は、自分の内的な思考や声と、外部から聞こえる声との区別が困難になることで生じるとも考えられています。脳が自分の思考を外部からの声として誤って認識してしまうというメカニズムです。
解離性障害:
特徴: 幻聴は統合失調症に限定されず、解離性障害でも見られます。特に、過去のトラウマ体験に関連する声や音が聞こえることがあります。
具体例: 虐待を受けた経験がある人が、その時の加害者の声が聞こえる、あるいは当時の状況を再現するような音が聞こえるといったケースがあります。これは、トラウマ記憶が解離的に意識に現れる形の一つと考えられます。
うつ病・適応障害・疲労:
特徴: 重度のうつ病や、強いストレス、極度の疲労、睡眠不足などが原因で、一時的に幻聴を経験することがあります。これは、脳の機能が一時的に不安定になることで生じると考えられます。
具体例: 徹夜続きで疲労困憊の時に、誰もいないはずの部屋で自分の名前を呼ばれた気がする、といった経験は、精神疾患とまではいかなくても、一過性の幻聴の例として挙げられます。
2. 聴覚過敏(Hyperacusis)と精神疾患
聴覚過敏は、特定の音や日常の音が、他の人には気にならないレベルでも、非常に不快に感じられたり、痛みを感じたりする状態です。
根拠と具体例
うつ病:
メカニズム: うつ病では、脳内のセロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質のバランスが崩れることが知られています。これらの物質は、感情の調整だけでなく、感覚のフィルター機能にも関与しています。セロトニン分泌量の低下や、心の防衛反応として感覚が過敏になることで、聴覚過敏が生じやすくなります。
具体例: うつ病の患者が、食器がぶつかる音や子どもの泣き声、車の走行音などを「耐え難い」と感じ、頭痛やめまいを伴うことがあります。これは、脳が音の情報を適切に処理しきれず、過剰に反応してしまうためと考えられます。
自閉スペクトラム障害(ASD):
特徴: ASDを持つ人々の多くは、感覚過敏(聴覚、視覚、触覚など)を経験します。これは、脳の情報処理の仕方に特性があるためと考えられています。
具体例: ASDの人が、蛍光灯のわずかな「ブーン」という音や、時計の秒針の音など、他の人が意識しないような音に強い不快感や苦痛を感じ、集中力の低下やパニックを引き起こすことがあります。これは、脳が特定の音をフィルターにかけることが苦手であるため、全ての音が同じように強く入ってきてしまうためと考えられます。
注意欠陥多動性障害(ADHD):
特徴: ADHDを持つ人の中にも、聴覚過敏を訴えるケースが見られます。これは、注意のコントロールが難しいことと関連している可能性があります。
具体例: 授業中や会議中に、周囲の小さな物音(ペンを叩く音、咳払いなど)が気になってしまい、集中できないといった状況が見られます。
心的外傷後ストレス障害(PTSD):
メカニズム: PTSDでは、トラウマ体験が脳に強い影響を与え、扁桃体などの恐怖反応に関わる部位が過活動になることがあります。これにより、危険を察知するための感覚が過敏になり、聴覚過敏として現れることがあります。
具体例: 爆音を伴う事故を経験した人が、日常の大きな音(車のクラクション、工事の音など)に対して過剰な恐怖や不安を感じ、心臓がドキドキしたり、呼吸が速くなったりするといった反応を示すことがあります。
ストレスと自律神経失調症:
メカニズム: 長期的なストレスは自律神経のバランスを乱し、交感神経が優位な状態が続くことで、身体が常に緊張状態になります。この状態は、聴覚を含む感覚器の過敏性を引き起こすことがあります。耳鳴りや難聴を伴うこともあります。
具体例: 仕事のストレスが溜まり、睡眠不足が続いた結果、些細な物音にもイライラしたり、耳鳴りがひどくなったりするケースがあります。これは、自律神経の乱れが聴覚に影響を与えているためと考えられます。
これらの症状は、精神疾患の診断や治療において重要な手がかりとなります。音の聞こえ方に異常を感じた場合は、心療内科や精神科、耳鼻咽喉科などの専門医に相談し、適切な診断と治療を受けることが重要です。武蔵中原駅前、中原こころのクリニックでは武蔵小杉駅から徒歩20分、武蔵新城駅からも徒歩15分程度であります。また溝ノ口(溝の口)からもバスや車で10分以内の立地です。川崎駅からもバスで一本であり南武線も乗り換えなしの16分の立地にあります。精神科専門医、心療内科医がかかりつけ医として高津区、中原区を中心とした訪問診療と外来通院治療を行っております
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