HPSという心理的用語を医療として解釈し対応していく方法

「HPS」という用語についてですが、一般的に心理学や医療の分野で広く認識されているのは「HSP(Highly Sensitive Person:ハイリー・センシティブ・パーソン)」です。ここでは、HSPを心理的特性として理解し、それによって生じる困りごとに対して医療としてどのように対応していくべきかについて、根拠に基づいて解説します。

HSPは、心理学者のエレイン・N・アーロン博士によって提唱された概念であり、「生まれつき感受性が非常に高く、環境からの刺激を深く処理する特性を持つ人」を指します。これは病気や疾患ではなく、個人の気質や性格の一部であるとされています。しかし、この特性によって日常生活で過度なストレスを感じ、うつ病や不安障害などの精神的な不調につながるケースがあるため、医療的なアプローチが重要となることがあります。

HSPの主な特徴(DOES: ダズ)

アーロン博士は、HSPの主要な特徴を「DOES」という頭文字で説明しています。

D (Depth of Processing):深く情報を処理する

物事を深く考え、多くの情報を複雑に処理する傾向があります。些細なことでも深く考察し、意味を探ろうとします。

O (Overstimulation):過剰に刺激を受けやすい(過飽和)

外部からの刺激(音、光、匂い、人混み、他者の感情など)に対して非常に敏感で、容易に圧倒され、疲弊しやすい傾向があります。

E (Emotional reactivity and Empathy):感情の反応が強く、共感力が高い

感情的な反応が大きく、他者の感情にも非常に敏感で、深く共感します。喜びや悲しみも人一倍強く感じやすいです。

S (Sensitivity to subtleties):些細な刺激にも気づく

一般的な人が気づかないような、環境の微細な変化や細部に気づく能力に優れています。

HSPは「病気ではない」という理解が医療的アプローチの出発点

HSPが医療の文脈で語られる際に最も重要な点は、「HSPは病気や精神疾患ではない」という認識です。精神疾患の診断基準であるDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)には記載されておらず、診断名として付けられることはありません。

しかし、「病気ではない」からといって、その特性によって生じる「生きづらさ」や「身体・精神的な不調」が無視されて良いわけではありません。むしろ、HSPという特性が、ストレス耐性の低下や特定の精神疾患への脆弱性につながる可能性があるため、医療的なサポートが必要となるのです。

医療としてHSPにどう対応していくべきか:根拠に基づいたアプローチ

HSPへの医療的アプローチは、主に「特性の理解と受容」「ストレスマネジメント」「精神的な不調への対処」の3つの柱で構成されます。

1. 特性の理解と受容(心理教育)

根拠: HSPに関する心理教育は、自己理解を深め、自身の特性に対するネガティブな自己認識を改善するために不可欠です。自分が「なぜこんなに敏感なのか」「なぜ他の人と違うのか」という疑問に対し、「それは生まれつきの特性である」という知識を与えることで、自己肯定感を高め、孤立感を軽減できます。アーロン博士の研究は、HSPが人口の約15〜20%に存在し、多様な性格特性の一つであることを示しており、これが異常ではないという認識が重要です(Aron, 1996)。

具体的な対応:

HSPに関する正確な情報提供: 専門家がHSPの概念、特徴、そしてそれが病気ではないことを丁寧に説明します。

自己肯定感の向上: 敏感さや繊細さを「弱点」ではなく「個性」や「強み」として捉え直すサポートを行います。深い共感力や洞察力、美的感覚の豊かさなど、HSPのポジティブな側面を認識させます。

共通の体験の共有: HSP当事者同士のグループセラピーや交流会を通じて、自身の体験が孤立したものではないことを理解させ、安心感を与えます。

2. ストレスマネジメントと環境調整

HSPの人が「生きづらさ」を感じる主な原因は、外部刺激への過剰な反応によるストレスや疲労の蓄積です。そのため、ストレスを効果的に管理し、環境を調整することが医療的アプローチの核心となります。

根拠: ストレスは、自律神経系や内分泌系、免疫系に影響を与え、身体症状(頭痛、めまい、吐き気、消化器症状など)や精神症状(不安、抑うつ、不眠など)を引き起こします(McEwen, 1998)。HSPの人は、非HSPの人よりも少ない刺激量で過剰なストレス反応を示すため、より積極的なストレスマネジメントが求められます。

具体的な対応:

刺激のコントロール:

物理的環境の調整: 静かな場所で過ごす時間を作る、光や音、匂いを調整する(耳栓、サングラス、アロマなど)、人混みを避ける工夫をする。

人間関係の境界線設定: 自分のエネルギーを過度に消耗させないよう、人との距離感を意識する、他者の感情に引きずられすぎないように意識する。

情報摂取のコントロール: ニュースやSNSなど、ネガティブな情報源からの距離を置く。

休息と回復:

十分な睡眠: 質の良い睡眠を確保する。

休息時間の確保: 一人の時間を作り、リラックスできる活動(瞑想、深呼吸、自然との触れ合いなど)を取り入れる。

オーバーワークの回避: 自分の限界を知り、無理をしない働き方や生活リズムを模索する。

セルフケアの促進:

マインドフルネス: 現在の瞬間に意識を向け、思考や感情を判断せずに観察することで、刺激への反応性を和らげ、ストレスを軽減する効果が示されています(Kabat-Zinn, 1990)。

自己観察と感情の言語化: どのような刺激でストレスを感じるか、どのような感情が湧き上がるかを記録し、言語化することで、客観的に対処法を検討できるようになります(ジャーナリングなど)。

趣味や創造的活動: 自分の内面と向き合い、感情を表現する手段として、芸術活動や趣味などを推奨します。

3. 精神的な不調への対処(症状に応じた治療)

HSPの特性を持つ人が、過度なストレスや環境への適応困難から、うつ病、不安障害(パニック症、社会不安症など)、適応障害、身体表現性障害などの精神疾患を発症した場合、それらに対する標準的な医療的治療を行います。中原こころのクリニックは川崎市武蔵中原駅前、武蔵小杉や溝の口からも近隣にありますが遠方よりいらっしゃる患者様もいます。かかりつけ制であり四ノ宮基医師が対応致します。四ノ宮自身もまた高校を中退しエリートの医師ではありませんが、本人の経験則もまたHSPの共感に繋がるものと考えております

根拠: HSPはそれ自体が疾患ではないものの、その特性が精神疾患の発症リスクを高めることは複数の研究で示唆されています。HSPの人は、ストレスに過敏に反応するため、環境からのストレスが閾値を超えると、精神的な脆弱性が顕在化しやすいと考えられます。この場合、疾患としての診断基準を満たしているため、それぞれの疾患に対する確立された治療法が適用されます。

具体的な対応:

薬物療法: 症状の重症度や種類に応じて、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠導入剤などが処方されることがあります。これはHSPを「治す」ためではなく、うつ症状や強い不安、不眠などの症状を緩和し、患者さんの苦痛を和らげ、心理療法や環境調整がより効果的に行える状態にするためです。例えば、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、うつ病や不安障害の治療に広く用いられ、脳内のセロトニンバランスを整えることで気分の安定を図ります。

心理療法:

認知行動療法(CBT): 状況に対する捉え方(認知)や行動パターンを変えることで、感情や症状を改善する治療法です。HSPの人が持つ「過剰な思考(反芻思考)」や「ネガティブな自己評価」に対し、客観的な視点を提供し、建設的な思考パターンを築く手助けをします(Beck, 1979)。例えば、「些細な失敗でも自分を責めすぎる」という認知を、「失敗は学びの機会」と捉え直す練習など。

アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT): 思考や感情を排除しようとするのではなく、「あるがままに受け入れる(アクセプタンス)」ことを重視し、自分の価値観に基づいた行動(コミットメント)を促します。HSPの人が自身の敏感さを「受け入れ」、その上で、自身の価値観に沿った生き方を見つける助けとなります(Hayes et al., 1999)。

対人関係療法(IPT): 対人関係の問題が症状にどう影響しているかに焦点を当て、コミュニケーションスキルや対人関係のパターンを改善することで、症状の軽減を目指します。HSPの人は対人関係において疲れやすさを感じることが多いため、この療法が役立つ場合があります。

医療従事者がHSP患者と接する際の配慮

HSPの特性を持つ患者さんを医療としてサポートする際、医療従事者側の理解と配慮も非常に重要です。

傾聴と共感: 患者さんの訴えを「気のせい」とせず、その苦痛に真摯に耳を傾け、共感的な姿勢で接すること。HSPの人は特に、理解されないことに苦痛を感じやすいです。

刺激への配慮: 診察室の環境(光、音、匂い)、待合室の混雑状況など、患者さんが刺激を受けにくいよう可能な範囲で配慮する。

情報提供の仕方: 大量の情報を一度に与えすぎず、簡潔に分かりやすく説明し、理解度を確認しながら進める。

治療目標の共有: HSP特性そのものの「治療」ではなく、その特性によって生じる「困りごと」や「症状」の軽減、そして患者さんが「生きづらさ」を感じずに自分らしく生活できるようになることを治療目標として共有する。

まとめ

HSPは病気ではなく、生まれ持った気質・特性です。しかし、その特性によって日常生活で過剰なストレスを感じ、うつ病や不安障害などの精神的な不調を引き起こす可能性があるため、医療的なサポートが重要になります。

医療としてHSPに対応していく方法は、HSPという特性を正しく理解し受け入れるための心理教育を基盤とし、過剰な刺激から身を守り、ストレスを管理するための環境調整とセルフケアの指導を行います。そして、もしその特性によって具体的な精神症状(うつ、不安、不眠など)が生じている場合には、**それぞれの症状に対する薬物療法や心理療法(認知行動療法、ACTなど)**を適切に提供し、患者さんの苦痛を和らげ、生活の質を向上させることを目指します。

HSPの人は、その敏感さゆえに苦しむことがある一方で、深い洞察力や豊かな感性といった強みも持ち合わせています。医療の役割は、HSPの人が自身の特性を理解し、その強みを活かしながら、より快適で充実した人生を送れるようサポートすることにあると言えるでしょう。

参考文献

Aron, E. N. (1996). The Highly Sensitive Person: How to Thrive When the World Overwhelms You. Broadway Books.

Beck, A. T. (1979). Cognitive Therapy of Depression. Guilford Press.

Hayes, S. C., Strosahl, K. D., & Wilson, K. G. (1999). Acceptance and Commitment Therapy: An Experiential Approach to Behavior Change. Guilford Press.

Kabat-Zinn, J. (1990). Full Catastrophe Living: Using the Wisdom of Your Body and Mind to Face Stress, Pain, and Illness. Delta.

McEwen, B. S. (1998). Stress, adaptation, and disease: Allostasis and allostatic load. Annals of the New York Academy of Sciences, 840(1), 33-44.

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