1. 身だしなみが心の健康に与える基本的な影響
身だしなみを整えるという行為は、単に他者へのマナーや見た目を良くするためだけでなく、セルフケア(自己を大切にする行為)の中核をなすものとして、精神衛生に深く関わります。
1.1. 気分の切り替えと「モード」の導入
服装には、心理的な「スイッチ」を入れる役割があります。例えば、医師が白衣を着ることで診察モードに切り替わるように、特定の服装やアクセサリーを身につけることは、役割意識や行動意欲を高めます。
明るい色・好きな服: 気分が落ち込んでいる時に明るい色や気に入った服を選ぶことは、気分転換を促し、ポジティブな感情を引き出す効果(カラー心理学・ファッション心理学)が報告されています。
「勝負服」: 自信を持ちたい時や緊張する場面で着用する「勝負服」は、心理的な安定感や自己効力感(自分はできるという感覚)を高め、ストレスホルモン(コルチゾール)のレベルを下げる効果も示唆されています。
1.2. 自己肯定感と自己表現
服装は、内面を表現する手段(自己表現)です。「私はこういう服が好き」「これが私らしい」という自己の在り方を表現する行為は、自己肯定感の向上に直結します。
自分を大切にする行為: 身だしなみを整える、お気に入りの服やアクセサリーを選ぶ、といった行動そのものが「私は大切な存在だ」という無意識のメッセージを脳に送り、自己を肯定的に評価する姿勢を育みます。
外見の乱れが送るメッセージ: 逆に、身だしなみが乱れている状態が続くと、「自分を大事にできていない」という無意識のメッセージとして脳に届き、気持ちまで沈んでしまうことがあります。
2. 精神疾患と身だしなみの変化
精神科の診察では、患者さんの**身なり(身だしなみ、服装、整容)**は、精神状態を評価する上で重要な観察項目の一つです。身だしなみの変化は、心の不調を示すサインとなることがあります。
2.1. うつ病などの気分障害
身だしなみの低下: うつ病の症状の一つに意欲・気力の低下があります。洗顔、歯磨き、着替え、整髪といった日常的な整容動作がおっくうになり、身だしなみが疎かになることが多く見られます。これは、精神運動の抑制や、自己を構うエネルギーの欠如を反映しています。
清潔感の欠如: 極端な場合、何日も同じ服を着続けたり、入浴ができなくなったりすることもあり、これは重症度の指標の一つともなりえます。
2.2. 躁病・軽躁病(双極性障害)
過度な派手さ: 躁状態や軽躁状態では、気分高揚や衝動性・活動性の亢進が見られます。これに伴い、服装が極端に派手になったり、露出が増えたり、過度なアクセサリーを身につけたり、TPOにそぐわない奇抜なファッションになったりすることがあります。これは、自信過剰、判断力の低下、自己抑制の欠如を反映していることがあります。
浪費行動: 高価な服やアクセサリーを衝動的に大量に購入する浪費行動は、躁状態の重要なサインの一つです。
2.3. その他の精神疾患
統合失調症: 幻覚や妄想の影響、あるいは意欲の低下から、服装が極端に不潔になったり、季節や状況に合わない服装をすることがあります。
摂食障害: 体型に対する過度なこだわりから、体型を隠すために極端にだぶだぶの服を着たり、逆に自己のイメージを強調するような服装を選んだりすることもあります。
3. 身だしなみを活用したセルフケアとリハビリテーション
身だしなみを整えることは、精神的な不調からの回復や、安定した精神状態を維持するための有効なセルフケアおよびリハビリテーションの手法となり得ます。
3.1. 「整える習慣」の導入
小さな達成感: 髪をとかす、顔を洗う、お気に入りのリップを塗る、といった小さな整容行動を意識的に行うことは、「今日はこれをやり遂げた」という小さな達成感を生み、自己肯定感を高めます。
ドーパミン活性化: 身だしなみを整えることは、脳の自己肯定感ややる気に関連するエリアを活性化させ、ドーパミン(やる気ホルモン)の分泌を促すと言われています。
3.2. 衣服のお手入れによるメンタルケア
服装心理学の観点からは、服のお手入れの時間を持つことが心のケアにつながるとされます。
マインドフルネス: アイロンがけや服のブラッシングといった単純作業は、一種のマインドフルネス(「今、ここ」に意識を集中すること)となり、創造的な時間やリラックス効果をもたらします。
自己効力感の確認: 帰宅後に服の手入れをしながら、その日の「達成したこと」に意識を向けることは、自己効力感を再確認し、心と服を「再生」させる機会となります。
3.3. 環境との調和と対人関係
清潔感のある身だしなみは、周囲に好印象や信頼感を与え、円滑な対人関係の構築に役立ちます。
肯定的なフィードバック: 周囲からの肯定的なフィードバックは、着用者の気分をさらに上げ、社会的なストレスを軽減する効果があります。
医療現場の例: 精神科医や医療事務の服装が派手すぎず清潔感があることが求められるのは、患者に安心感を与え、治療への信頼感を高めるために非常に重要であるためです。
4. まとめ
洋服やアクセサリー、そして身だしなみは、私たちの心の状態を映し出す鏡であり、同時に心の状態を積極的に変えるツールでもあります。精神科の視点から見ると、身だしなみは単なる外見ではなく、自己愛、意欲、自己肯定感、社会適応能力といった精神機能の状態を反映する重要な指標であり、セルフケアやリハビリテーションの有効な介入点となりえます。
**「おしゃれを楽しむことはストレスを緩和し、心も体も元気にする」**ことにつながります。メンタルが不調な時こそ、無理のない範囲で、鏡を見て自分を整えることから始めるのは、自立した健康的な生活を送るための第一歩と言えるでしょう。
ファッションはメンタルにすごく良い! 3つの理由【精神科医・樺沢紫苑】
この動画は、ファッションがメンタルヘルスに良い3つの理由を精神科医が解説しており、心の調子と身だしなみの関係について理解を深める助けになります。樺沢先生はyou tubeや書籍で活躍されていらっしゃいますからご存知の方も多いかもしれません
メディアに出る精神科医やyahooコメンテーターはなぜか専門医ではない医師が多く精神科医が集まると誰なんだ?と話題になりますが、樺沢先生の著書は一般書でも研修医や学部生にも参考になる現在におけるきちんとした精神科の医師の先輩です
中原こころのクリニックでは気軽に皆様から武蔵小杉や川崎また溝の口よりご相談いただければ問題を抽出し一緒に考えるよう努力致します、当院の近隣にも武蔵小杉グランツリーや溝の口にはマルイの商業施設やラゾーナ川崎もあります。手持ちの服から気分を変えてみることもいいでしょう♪
