みなさま、ブログをご覧いただきありがとうございます
精神科医にとって統合失調症の患者様を診断し治療していくことは精神科医そのものであることのように思います。医局のなかでも治療の方針などよく相談し合い、少しでも生きやすくなる手助けはないのだろうかと考えてきました
陽性症状の幻覚や妄想といった精神病性特徴が目立つ疾患ではありますが、無為や自閉といった陰性症状が社会的に影響を及ぼすこともあり、またうつ状態や興奮といった気分変容を伴うこともあれば、入眠困難といった睡眠障害はほとんどの患者様に認められる症状です。前景に広がる症状と病気そのものの症状の見極めは患者様との関係の中から見出しながら治療しています。薬物療法が中心となりますが、副作用が少ないお薬の開発も進んでおります。内服が難しいかたへの貼付薬もあります。
もともとはドーパミンの受容体へ作用するお薬が中心でありますが治験中のお薬の論文がNEJMに掲載されておりましたのでご紹介致します。
統合失調症の治療のための D2 受容体に結合しない薬剤
A Non–D2-Receptor-Binding Drug for the Treatment of Schizophrenia1)
【BACKGROUND】
An oral compound, SEP-363856, that does not act on dopamine D2 receptors but has agonist activity at trace amine–associated receptor 1 (TAAR1) and 5-hydroxytryptamine type 1A (5-HT1A) receptors, may represent a new class of psychotropic agent for the treatment of psychosis in schizophrenia.
【背景】
SEP-363856 は,ドパミン D2 受容体には作用しないが,微量アミン関連受容体 1(TAAR1)と 5-ヒドロキシトリプタミン 1A(5-HT1A)受容体に対するアゴニスト活性を有する経口化合物である.この薬剤は,統合失調症のサイコーシスを治療するための新規クラスの向精神薬となる可能性がある.
【METHODS】
We performed a randomized, controlled trial to evaluate the efficacy and safety of SEP-363856 in adults with an acute exacerbation of schizophrenia. The patients were randomly assigned in a 1:1 ratio to receive once-daily treatment with SEP-363856 (50 mg or 75 mg) or placebo for 4 weeks. The primary end point was the change from baseline in the total score on the Positive and Negative Symptom Scale (PANSS; range, 30 to 210; higher scores indicate more severe psychotic symptoms) at week 4. There were eight secondary end points, including the changes from baseline in the scores on the Clinical Global Impressions Severity (CGI-S) scale and the Brief Negative Symptom Scale (BNSS).
【方 法】
急性増悪期の統合失調症を有する成人における SEP-363856 の有効性と安全性を評価する無作為化比較試験を行った.患者を,SEP-363856(50 mg または 75 mg)を 1 日 1 回 4 週間投与する群とプラセボ群に 1:1 の割合で無作為に割り付けた.主要エンドポイントは,4 週の時点における陽性・陰性症状評価尺度(PANSS;30~210 で,スコアが高いほど精神病症状が重度であることを示す)の合計スコアのベースラインからの変化量とした.副次的エンドポイントは,臨床全般印象–重症度(CGI-S)尺度や簡易陰性症状尺度(BNSS)などの 8 項目のスコアのベースラインからの変化量とした.
【RESULTS】
A total of 120 patients were assigned to the SEP-363856 group and 125 to the placebo group. The mean total score on the PANSS at baseline was 101.4 in the SEP-363856 group and 99.7 in the placebo group, and the mean change at week 4 was −17.2 points and −9.7 points, respectively (least-squares mean difference, −7.5 points; 95% confidence interval, −11.9 to −3.0; P=0.001). The reductions in the CGI-S and BNSS scores at week 4 were generally in the same direction as those for the primary outcome, but the results were not adjusted for multiple comparisons. Adverse events with SEP-363856 included somnolence and gastrointestinal symptoms; one sudden cardiac death occurred in the SEP-363856 group. The incidence of extrapyramidal symptoms and changes in the levels of lipids, glycated hemoglobin, and prolactin were similar in the trial groups.
【結 果】
120 例を SEP-363856 群,125 例をプラセボ群に割り付けた.ベースラインの PANSS の合計スコアの平均は,SEP-363856 群が 101.4,プラセボ群が 99.7 であり,4 週の時点での変化量の平均はそれぞれ -17.2 ポイント,-9.7 ポイントであった(最小二乗平均差 -7.5 ポイント,95%信頼区間 -11.9~-3.0,P=0.001).4 週の時点での CGI-S スコアと BNSS スコアの低下は全体的に主要エンドポイントと同様の方向性を示したが,多重比較の補正は行っていない.SEP-363856 による有害事象は傾眠,消化器症状などであり,SEP-363856 群では心臓突然死が 1 件発生した.錐体外路症状の頻度と,脂質値,糖化ヘモグロビン値,プロラクチン値の変化量は 2 群で同程度であった.
【CONCLUSIONS】
In this 4-week trial involving patients with an acute exacerbation of schizophrenia, SEP-363856, a non–D2-receptor-binding antipsychotic drug, resulted in a greater reduction from baseline in the PANSS total score than placebo. Longer and larger trials are necessary to confirm the effects and side effects of SEP-363856, as well as its efficacy relative to existing drug treatments for patients with schizophrenia. (Funded by Sunovion Pharmaceuticals; ClinicalTrials.gov number, NCT02969382. opens in new tab.)
【結 論】
急性増悪期の統合失調症患者を対象とした 4 週間の試験において,D2 受容体に結合しない抗精神病薬である SEP-363856 を投与した患者では,プラセボを投与した患者よりも PANSS の合計スコアのベースラインからの低下が大きかった.統合失調症患者に対する SEP-363856 の作用と副作用,および既存薬による治療と比較した有効性を確認するには,より長期かつ大規模な試験が必要である.(サノビオン・ファーマシューティカルズ社から研究助成を受けた.ClinicalTrials.gov 登録番号 NCT02969382)
考察:統合失調症の治療においてもうつ病や神経症圏の治療においてもTAARI受容体というのは聞きなれない受容体かと思われます。TAAR1(trace amine-associated receptor 1)はG蛋白共役型の細胞内受容体で、胃や小腸などに分布する他、中枢神経のモノアミン神経系のシナプス前終末内に分布しており、神経伝達物質の放出を調節する機能を有し、SEP-363856 は 腹側被蓋野神経細胞を抑制するが、これはTAAR1 の活性化を介する可能性が高い。しかしながら抑制は記録された細胞の半分にしか認められず、SEP-363856による腹側被蓋野神経細胞の選択的な抑制を示唆している2)。
現段階で第3相にある新薬ではございますがし開発段階をみまもっていきたいと考えております
参考文献:1)Kenneth S. Koblan, Ph.Det al;N Engl J Med 2020; 382:1497-1506 2)1)Schwartz MD et al. Expert Opin Ther Targets. 2018 Jun;22(6):513-526.
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