選挙など国の政治が大きく動くときに私たちの心の変化を医師が分析し精神科専門医的なアプローチの検討

選挙のように国の政治が大きく動く局面では、社会全体が「集団としての緊張状態」に入り、個人の心理にも多層的な変化が生じる。精神科医の視点で整理すると、反応は大きく三つのレベル

①生理的反応

②認知・感情の変化

③行動・対人関係の変化

以下では、それぞれの変化と、専門医が実際に行う対応をモデルにした「専門医的なセルフケア方法」を体系的にまとめる。

生理的レベルの変化:ストレス反応としての政治イベント
選挙は、個人の生活に直接影響する可能性があるため、脳は「重要な環境変化」として処理する。これにより、以下のような生理的反応が起こりやすい。

  • 交感神経の亢進 — 心拍数上昇、浅い呼吸、落ち着かない感覚
  • 睡眠の質の低下 — 就寝前のニュース閲覧やSNSでの議論が脳を覚醒させる
  • 慢性的な緊張 — 結果が出るまでの不確実性がストレスホルモンを増加させる
  • 身体症状の増悪 — 頭痛、胃腸症状、肩こりなどのストレス関連症状
    精神科医は、これらを「正常なストレス反応」と位置づけつつ、過度に強い場合は不安障害や気分障害の増悪として評価する。
    専門医的セルフケア
  • 情報摂取の時間制限:就寝2時間前のニュース・SNSを避ける
  • 呼吸法:4秒吸う→6秒吐くを5分
  • 身体感覚のモニタリング:肩の緊張、呼吸の浅さを意識的に緩める
  • 睡眠衛生の徹底:光刺激を減らし、入眠儀式を固定する

認知・感情レベルの変化:不確実性がもたらす心理的ゆらぎ
政治イベントは「結果が読めない」「自分ではコントロールできない」という特徴があり、これが心理的負荷を増大させる。
よく見られる認知の変化

  • 将来予測の悲観化
  • 白黒思考(極端な二分法)
  • 選択的注意(不安を強める情報ばかり目に入る)
  • 確証バイアス(自分の意見を補強する情報だけを集める)
    感情の変化
  • 不安の増大
  • 怒りの増幅(SNSで特に顕著)
  • 無力感・虚無感
  • 期待と失望の振れ幅の大きさ
    精神科医は、これらを「認知の偏り」「情動調整の困難」として評価し、必要に応じて認知行動療法的アプローチを用いる。
    専門医的セルフケア
  • 認知の偏りを言語化する
  • 「本当に100%悪い未来しかないのか?」
  • 「自分が見ていない情報はないか?」
  • 感情と事実を分ける練習
  • 感情=主観
  • 事実=検証可能な情報
  • SNSの“感情感染”を避ける
  • 怒りの投稿は脳の扁桃体を刺激し、連鎖的に不安を増幅させる
  • “いま自分がコントロールできる範囲”を明確化する
  • 投票
  • 情報の選び方
  • 自分の生活習慣

行動・対人関係レベルの変化:社会的緊張の高まり
政治的緊張は、対人関係にも影響を与える。
よく見られる行動変化

  • SNSでの議論・対立の増加
  • 家族・友人との政治的衝突
  • ニュースの過剰チェック
  • 仕事や学業への集中力低下
    精神科医は、これらを「ストレス行動」「対人関係の摩擦」として評価し、必要に応じて対人関係療法(IPT)やストレスマネジメントを行う。
    専門医的セルフケア
  • 政治の話題を避ける境界線を設定する
  • 「今日は政治の話題は控えたい」
  • SNSの“議論の沼”に入らないルールを決める
  • 返信は1回まで
  • 感情的な投稿には反応しない
  • 生活リズムの維持
  • ストレス時ほど基本的な生活習慣が崩れやすい
  • 集中力の回復のための“注意の切り替え”
  • 5分の散歩
  • 目を閉じて呼吸を整える

選挙後に起こりやすい心理反応とケア
選挙後には、結果に応じて異なる心理反応が生じる。
結果に満足した場合

  • 安堵
  • 高揚感
  • 他者への説得欲求の増加(対立を生みやすい)
    結果に不満がある場合
  • 失望
  • 怒り
  • 無力感
  • 将来への不安
    精神科医は、これらを「正常な情動反応」としつつ、長期化する場合は抑うつや不安障害の兆候として評価する。
    専門医的セルフケア
  • 結果への感情を“事実”と切り離して整理する
  • 政治的議論から距離を置く時間を意図的に作る
  • 生活の可視化(ルーティンの再構築)
  • 不安が強い場合は身体感覚に戻る練習
  • 足裏の感覚
  • 呼吸のリズム

川崎市、武蔵小杉より近位である中原こころのクリニックにて精神科専門医医が実際に行う介入モデルをセルフケアに応用する
精神科医が政治イベントに関連したストレスを扱う際、以下のような枠組みを用いる。これを個人向けに応用すると、専門的なセルフケアになる。

  1. アセスメント(評価)
  • どのレベルで負荷がかかっているか
  • 生理
  • 認知
  • 感情
  • 行動
  • 対人関係
  • 生活機能(睡眠・食事・仕事)がどの程度影響を受けているか
  1. 心理教育
  • ストレス反応の仕組み
  • SNSの影響
  • 認知の偏りのパターン
  1. 認知行動療法的アプローチ
  • 自動思考の整理
  • 認知の再評価
  • 行動活性化
  1. ストレスマネジメント
  • 呼吸法
  • マインドフルネス
  • 生活リズムの安定化
  1. 対人関係調整
  • 境界線の設定
  • 衝突の回避
  • 支援者とのつながりの維持

最後に:政治イベントは「心の地震」
選挙は、社会全体の価値観が揺れる「心の地震」のようなもの。
揺れそのものは自然な反応であり、問題は「揺れたあとにどう立て直すか」。
精神科医的な視点では、

  • 生理
  • 認知
  • 感情
  • 行動
  • 対人関係
    の5つの軸を整えることが、心の安定を取り戻す鍵になる。
    分析的に物事を理解しようとする姿勢は、こうした心理的揺れを整理するうえで非常に有効。必要であれば、特定の状況(例:SNSでの議論疲れ、家族との政治的対立、不安の強まりなど)に合わせた個別の対処法もさらに深掘りできます。ただSNSには依存し過ぎないようにしましょう

1〜2月にかけて北半球で起こりやすい心の変化―中原こころのクリニックの視点から読み解く冬季のメンタルダイナミクス―

  1. 冬という季節が心に与える「生物学的負荷」
    北半球の1〜2月は、年間で最も日照時間が短く、気温も低い。精神医学の領域では、この時期に特有の心の変化が生じる背景として、生物学的リズムの乱れが大きな要因とされる。
    ● 日照不足とセロトニンの低下
    日光は、脳内でセロトニンを合成する際の重要な刺激になる。
    冬季は日照量が減るため、セロトニン活性が低下しやすく、以下のような変化が起こりやすい。
  • 気分の落ち込み
  • 意欲の低下
  • 食欲の変化(とくに炭水化物への渇望)
  • 朝起きにくい、眠気が強い
    これらは「冬季うつ(季節性情動障害:SAD)」の典型的な症状だが、診断に至らない軽度の変化は一般の人にも広く見られる。
    ● メラトニン分泌の増加と体内時計のずれ
    日照が少ないと、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌が長く続き、
    「眠いのに寝た気がしない」「朝がつらい」
    といった状態が起こりやすい。
    体内時計が後ろにずれることで、生活リズムが乱れ、気分の不安定さにつながる。
  1. 日本に特有の文化的・社会的要因
    冬のメンタル変化は世界共通だが、日本では文化的背景がさらに心の負荷を強める。
    ● 年末年始の反動
    12月はイベントが多く、社会全体が「盛り上がる空気」に包まれる。
    しかし1月に入ると一気に日常へ戻り、心理的な落差が生じる。
  • 年末年始の疲労
  • 休暇明けの仕事・学校への復帰
  • 期待と現実のギャップ
    これらが「1月病」と呼ばれる状態を引き起こす。
    ● 新年の目標プレッシャー
    日本では「今年こそは」という目標設定が文化的に根付いている。
    しかし1月後半〜2月にかけて、目標がうまく進まない現実に直面し、自己効力感が低下しやすい。
    ● 受験シーズンの緊張感
    日本の2月は受験のピークであり、家庭や社会全体に緊張感が漂う。
    本人だけでなく、家族や周囲の人にも心理的負荷が波及する。
    ● 冬の孤立感
    寒さにより外出が減り、社会的接触が少なくなる。
    孤立は気分の低下を招きやすく、特に一人暮らしの若者や高齢者に影響が大きい。
  1. 精神科医が注目する「冬の認知の変化」
    冬季は、気分だけでなくものの捉え方(認知)にも特徴的な変化が起こる。
    ● ネガティブバイアスの強まり
    セロトニン低下や疲労の蓄積により、脳は「危険・不安」に敏感になる。
    その結果、
  • 物事を悲観的に解釈しやすい
  • 小さな失敗を過大評価する
  • 将来への不安が膨らむ
    といった傾向が強まる。
    ● 自己評価の低下
    冬季は「自分はダメだ」という自己否定的な思考が増えやすい。
    これは生物学的変化に加え、年末年始の振り返り文化が影響している。
    ● 思考の鈍化
    冬季うつの特徴として、思考のスピードが落ちることがある。
    「頭が働かない」「集中できない」という訴えは冬に増える。
  1. 1〜2月に増える精神科受診の傾向
    精神科外来では、1〜2月に以下の訴えが増える。
    ● 気分の落ち込み
    ● 不眠・過眠
    ● 不安の増大
    ● パニック症状の悪化
    ● 過食・体重増加
    ● 子どもの不登校の増加
    特に「朝起きられない」「学校に行けない」という相談は冬に集中する。
    これは生体リズムの乱れが大きく関与している。
  2. 北欧との比較から見える「日本の冬の脆弱性」
    北欧は日照が極端に短いが、冬季うつの発症率は日本より高いわけではない。
    その理由として、精神医学では以下が指摘される。
  • 冬の過ごし方の文化(屋内活動の充実)
  • 光環境の工夫(高照度照明の普及)
  • 社会的孤立を防ぐコミュニティ文化
  • 休暇の取り方が柔軟
    日本はこれらが弱く、冬のストレスが蓄積しやすい。
  1. 1〜2月に起こる「身体症状」と心の関係
    冬季は身体症状も増え、それが心の不調を助長する。
    ● 冷えによる倦怠感
    ● 肩こり・頭痛
    ● 自律神経の乱れ
    ● 風邪やインフルエンザによる体力低下
    身体の不調は気分の低下と密接に関連しており、悪循環を生みやすい。
  2. 精神科医が考える「冬の心の守り方」
    医学的助言ではなく、一般的な知識として、冬に心を守るためのポイントを紹介する。
    ● 1. 光を意識的に浴びる
    朝の散歩や窓際での作業など、日光を取り入れるだけでも体内時計が整いやすい。
    ● 2. 生活リズムを崩さない
    冬は「寝すぎ」「夜更かし」が増えるため、起床時間を一定に保つことが重要。
    ● 3. 運動量を確保する
    軽い運動でもセロトニン活性が上がり、気分が安定しやすい。
    ● 4. 人とのつながりを意識する
    孤立は冬のメンタル低下を加速させる。
    短い会話やオンライン交流でも効果がある。
    ● 5. 完璧主義を緩める
    冬は生物学的にパフォーマンスが落ちやすい時期。
    「できない自分」を責めすぎないことが大切。
  3. まとめ:冬の心の変化は「自然な反応」
    1〜2月にかけて北半球で起こる心の変化は、
    生物学的・環境的・文化的要因が重なって生じる自然な現象だと精神医学では理解されている。
  • 日照不足による脳内物質の変化
  • 体内時計の乱れ
  • 年末年始の反動
  • 社会的孤立
  • 日本特有の文化的プレッシャー
    日中なるべく適切な紫外線に当たりメラトニンの生成を促し、セロトニンにおいては薬物療法のみならず食事などでも補うことも可能です。高照度器具購入にあたり一緒に検討することもできます。あなたのみではない苦手な冬季を乗り越えられるサポートが中原こころのクリニックでは出来ればと考えております

腹痛を「心が原因」と考える根拠、手順、および対応:精神科専門医の視点

腹痛という身体症状を「心が原因」(心因性)と考えることは、精神科医療において非常に重要な鑑別診断の一つであり、安易な判断は避けるべきですが、適切なプロセスを経ることで、患者さんの苦痛の根本的な解決につながります。

精神科専門医として、このプロセスを医学的ガイドライン(DSM-5:『精神疾患の診断・統計マニュアル』や、消化器病学会の機能性消化管疾患ガイドラインなど)に基づき、以下の3つの段階に分けて解説します。

1. 根拠:なぜ腹痛を「心が原因」と考えるのか

腹痛を「心が原因」と考える背景には、「心身相関」という基本的な理解と、特定の診断カテゴリーの存在があります。

1.1. 身体症状の多様性と心身相関

痛みは、単なる組織の損傷だけでなく、中枢神経系(脳と脊髄)での情報処理、感情、認知、過去の経験が複雑に絡み合って成立します。ストレスや不安、抑うつは、自律神経系や**視床下部-下垂体-副腎系(HPA軸)**を介して、直接的に消化管の運動や知覚に影響を与えます。

脳腸相関(Brain-Gut Axis): 脳と腸は双方向に密接に情報交換を行っています。ストレスは腸の動き(蠕動運動)を異常にしたり、内臓の知覚過敏を引き起こしたりします。これが「機能性消化管疾患(FGID)」、特に**過敏性腸症候群(IBS)や機能性ディスペプシア(FD)**の主要なメカニズムです。

1.2. 精神医学的診断カテゴリーの存在

器質的な病変がないにもかかわらず、強い腹痛が持続する場合、精神医学的な疾患の可能性を検討します。

診断カテゴリー(DSM-5)             特徴と腹痛との関連

身体症状症           苦痛を伴う身体症状(腹痛など)に加え、その症状や関連する健康の懸念に対する過度な思考、感情、行動がある。症状そのものよりも、**症状への「とらわれ」**が生活の支障となる。

病気不安症           身体症状はあっても軽微、あるいはなくても、重篤な病気になることへの過度な不安が6ヶ月以上持続する(旧:心気症)。腹痛をきっかけに、重い病気ではないかと常に心配する。

転換症    心理的なストレスが、意識的に制御できない神経学的症状(例:麻痺、失明、痙攣)として現れるもの。腹痛として現れることは少ないが、身体化の一つ。

抑うつ障害・不安障害       精神疾患の随伴症状として、自律神経の不調を介して腹痛や消化器症状(吐き気、下痢、便秘など)が頻繁に出現する。

【重要なガイドラインの解釈】

慢性疼痛に関する国際疼痛学会(IASP)では、かつて「心因性疼痛」と呼ばれていたものを、器質的要因も関わることを考慮し、「心理社会的疼痛」と呼ぶ傾向があり、痛みの要因は一つではない(混合性疼痛)という認識が主流です。

2. 手順:「心が原因」と考えるまでのプロセス

精神科専門医が腹痛を心因性と疑い、診断に至るまでには、厳格なプロセスが必要です。

Step 1: 器質的疾患の徹底的な除外(重要)

これが最も重要です。精神科医は、患者さんが必ず先に消化器内科などの専門医を受診し、必要な身体的検査(血液検査、内視鏡検査、CT/MRIなど)を受け、急性腸炎、炎症性腸疾患(IBD)、消化性潰瘍、癌などの器質的疾患が除外されていることを確認します。

ガイドラインに基づいた除外: 特に機能性消化管疾患の診療ガイドラインでは、警鐘症状(Red Flag Signs)(例:発熱、血便、原因不明の体重減少、夜間覚醒を伴う症状など)がないことの確認が必須です。

Step 2: 精神医学的アセスメントの実施

器質的異常がないことを前提に、精神科的な問診と評価を行います。

症状の詳細な聴取(性質、時間帯、増悪因子):

痛みはいつから、どのような性質か(刺すような、重苦しい、など)。

心理的要因との関連: ストレス、不安、特定の人間関係、出来事と症状の悪化・出現が時間的に一致するか。

日常生活への支障: 症状が学校、仕事、家庭生活、社会活動にどれほど影響を与えているか。

精神状態の評価(現在の苦悩の特定):

抑うつ、不安、パニック症状の有無。

症状に対する認知・感情(「とらわれ」): 「この腹痛は絶対に治らない」「実は重い病気ではないか」といった過度な心配、頻繁な受診行動、日常生活への過剰な影響(例:腹痛が怖くて外出できない)。

心理社会的ストレス: 職場や家庭でのストレス要因、トラウマ体験の有無。

診断基準との照合:

DSM-5の身体症状症の診断基準(苦痛を伴う身体症状+過度な思考・感情・行動)や、他の精神疾患の基準に合致するかどうかを厳密に照合します。

Step 3: 診断の共有と心理教育(Psychoeducation)

心身の関連性が高いと判断された場合、患者さんに**「病気ではない」のではなく、「脳と腸の連携ミス」や「ストレスによる身体化」である**ことを丁寧に説明します。

「診断名」の重要性: 「過敏性腸症候群(IBS)」「機能性ディスペプシア(FD)」または「身体症状症」といった具体的な診断名を提示し、痛みが「気のせい」ではなく、実際に苦痛を伴う病態であることを認めます。

責任の明確化: 痛みが「患者さんの努力不足」や「性格」のせいではないことを伝え、安心感を与えます。

3. 対応:心が原因の腹痛への精神科的アプローチ

腹痛の原因が心理社会的要因と強く関連する場合、精神科専門医は「心」と「身体」の両面から統合的な治療を行います。

3.1. 心理療法(中核的治療)

認知行動療法(CBT): 症状への**「とらわれ」や破局的思考**(「この痛みで死ぬかもしれない」)といった認知の歪みを修正し、症状とうまく付き合うための行動変容を促します。特にIBSに対するCBTは有効性が示されています。

マインドフルネス・自律訓練法: 腹部の不快な感覚に対して過敏になるのを避け、「今、ここ」の現実に意識を集中させる練習を通じて、内臓知覚の過敏さを軽減し、不安やストレスをコントロールします。

森田療法: 症状への注意の固着(とらわれ)がある身体症状症に対し、「症状をあるがままに受け入れ、目的本位の行動をする」ことで、症状の悪循環を断ち切るアプローチが有効となることがあります。

3.2. 薬物療法(補助的治療)

抗うつ薬・抗不安薬の活用: 症状が強く、抑うつや不安を伴う場合や、消化器内科治療で効果が不十分な場合に用いられます。

**三環系抗うつ薬(TCA)や選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)**の一部は、腸管の知覚過敏を改善する効果や、抑うつ・不安を軽減する効果があり、機能性消化管疾患の二次治療として、ガイドラインでも有効性が示唆されています。

抗不安薬は、急性的な不安に伴う腹痛の緩和に用いられることがありますが、依存性や副作用に注意して慎重に投与されます。

3.3. 環境調整と生活指導

ストレス・マネジメント: 症状を「がんばりすぎのサイン」と位置づけ、仕事や生活での過剰な負荷を緩めるよう助言します。適切な休息、十分な睡眠の確保を指導します。

食事・生活習慣の見直し: 消化器内科医と連携し、FODMAP食(特定の糖質を制限する食事)の導入や、規則正しい生活リズムの確立を推奨します。

結論

腹痛を「心が原因」と考えるプロセスは、身体的異常の徹底的な除外から始まり、精神科医による心理社会的要因と症状への「とらわれ」の評価を経て、「身体症状症」や機能性消化管障害などの診断に至ります。

中原こころのクリニックでは四ノ宮基が精神科専門医として、患者さんの身体的な苦痛を「気のせい」とせず、心身のつながりの中で生じた真の病態として捉え、心理療法と薬物療法を組み合わせた統合的なアプローチで対応することが、症状の緩和とQOL(生活の質)の改善につながります。遠方よりいらっしゃる患者様には恐縮ではありますが当院は営業の半分を訪問診療に割いている多機能メンタルクリニックでありますことをご了承ください。溝の口や川崎、横浜からも近くお気軽に精神科や心療内科の敷居を越えて苦しみから解放されるお手伝いをさせていただければと考えております

**世界情勢・政治ニュースが精神に与える影響と、私たちがいまできること

―精神科医の視点からの考察―**

序論:情報の洪水と心の負荷

現代社会において、世界情勢や政治に関するニュースは、スマートフォンの通知やSNSのタイムラインを通じて、ほぼリアルタイムで私たちの生活に流れ込んでくる。戦争、紛争、経済危機、社会不安、政治的対立など、刺激の強い情報が連日報じられることで、多くの人が「不安」「怒り」「無力感」「疲労感」を抱えている。

精神医学の観点から見ると、こうした情報環境は、私たちの脳のストレス反応系を慢性的に刺激し、心身の健康に影響を及ぼす可能性がある。特に、ニュースの内容が自分の生活に直接関係しない場合でも、脳は「脅威」として処理する傾向があるため、過剰なストレス反応が生じやすい。

本稿では、世界情勢や政治ニュースが精神に与える影響を精神医学的に整理し、私たちが日常生活で実践できる対処法を提示する。

第一章:政治ニュースが精神に与える心理的影響

1. 不安の増大と「予期不安」

戦争や国際情勢の緊張、経済不安などのニュースは、未来に対する不確実性を強調する。精神医学では、未来の脅威を過大に予測してしまう状態を「予期不安」と呼ぶ。

•            「この先どうなるのだろう」

•            「自分の生活は大丈夫だろうか」

•            「世界が悪い方向に向かっている気がする」

こうした思考は、脳の扁桃体を刺激し、交感神経を優位にする。結果として、動悸、睡眠障害、集中力低下などの身体症状が現れることもある。

2. 怒りや敵意の増幅

政治ニュースはしばしば対立構造を強調する。SNSでは特に、怒りを喚起する情報が拡散されやすい傾向があるため、私たちは知らず知らずのうちに「怒りの連鎖」に巻き込まれる。

怒りは本来、自己防衛のための自然な感情だが、慢性的に続くと以下のような影響をもたらす。

•            判断力の低下

•            人間関係の悪化

•            睡眠の質の低下

•            血圧上昇など身体的負荷

精神科臨床では、慢性的な怒りはうつ病や不安障害のリスク因子としても知られている。

3. 無力感と「学習性無力感」

世界情勢の大きな問題は、個人の力では解決できないことが多い。そのため、ニュースを見続けることで「何もできない」「どうせ変わらない」という無力感が蓄積する。

心理学者セリグマンが提唱した「学習性無力感」は、コントロールできない状況が続くと、人は努力する意欲を失い、抑うつ状態に陥りやすくなるという理論である。

政治ニュースの過剰摂取は、この無力感を強める可能性がある。

4. 情報疲労(Information Fatigue Syndrome)

情報過多による疲労は、現代特有のストレス反応である。

•            情報を処理しきれない

•            何を信じればいいかわからない

•            ニュースを見るだけで疲れる

こうした状態は、脳の前頭前野の負荷を増大させ、意思決定能力の低下や感情調整の困難につながる。

第二章:脳科学から見たニュースの影響

1. 扁桃体の過剰反応

脳の扁桃体は「脅威」を検知するセンサーのような役割を持つ。政治ニュースの多くは、危機や対立を扱うため、扁桃体が過剰に反応しやすい。

扁桃体が活性化すると、ストレスホルモンであるコルチゾールが分泌され、慢性的なストレス状態が続く。

2. 前頭前野の疲労

前頭前野は判断力や感情のコントロールを担うが、情報過多の状態では疲労しやすい。これにより、

•            冷静な判断ができない

•            感情的になりやすい

•            ネガティブな情報に引きずられる

といった状態が生じる。

3. SNSによる「報酬系」の刺激

SNSは「いいね」やコメントなどの報酬刺激を通じて、脳のドーパミン系を刺激する。政治ニュースは感情を揺さぶるため、SNS上での反応が増えやすく、結果として依存的に情報を追い続けてしまう。

第三章:私たちがいまできること ― 実践的な対処法

1. ニュースとの距離を適切に保つ

● 情報の「量」をコントロールする

•            1日にニュースを見る時間を決める

•            SNSの通知をオフにする

•            信頼できる媒体を限定する

情報を「選ぶ」ことは、心の健康を守るための重要なスキルである。

● 情報の「質」を見極める

•            感情を煽る見出しに注意する

•            出典や根拠を確認する

•            不確実な情報に振り回されない

2. コントロールできる範囲に意識を向ける

精神医学では、ストレス対処の基本として「コントロール可能な領域に集中する」ことが推奨される。

•            自分の生活習慣を整える

•            周囲の人との関係を大切にする

•            自分ができる社会貢献を小さくても実践する

世界全体を変えることは難しくても、自分の生活を整えることは可能である。

3. 心身のセルフケアを徹底する

● 睡眠・食事・運動

これらは精神の安定に直結する。特に運動は、ストレスホルモンを減らし、気分を改善する効果が科学的に証明されている。

● マインドフルネス

呼吸に意識を向けるだけでも、扁桃体の過剰反応を抑える効果がある。

● デジタルデトックス

週に数時間でも、スマホから離れる時間を作ることで、脳の疲労が大きく軽減される。

4. 感情を言語化する

心理療法の観点では、感情を言語化することがストレス軽減に有効とされる。

•            日記を書く

•            信頼できる人に話す

•            自分の感情を「ラベリング」する

「不安だ」「疲れている」「怒っている」と言葉にするだけで、脳の前頭前野が活性化し、感情が整理されやすくなる。

5. 社会とのつながりを保つ

孤立はストレスを増幅させる。家族や友人とのつながりは、精神的なレジリエンス(回復力)を高める。

•            雑談をする

•            趣味のコミュニティに参加する

•            オンラインでも良いので交流を持つ

第四章:精神科医の視点からの総合的アドバイス

世界情勢や政治ニュースは、私たちの生活に直接影響する重要な情報である。しかし、過剰に接触すると、脳のストレス反応系が慢性的に刺激され、精神的な不調を引き起こす可能性がある。

精神科医として強調したいのは、「情報との距離感を自分で調整することは、心の健康を守るための重要なスキルである」という点である。

•            ニュースを必要以上に追わない

•            感情を揺さぶる情報から距離を置く

•            自分の生活を整えることに集中する

•            コントロールできる範囲に意識を向ける

これらは、精神医学的にも効果が確認されている実践的な方法である。

結論:世界が不安定な時代だからこそ、心の安定を優先する

世界情勢が不安定な時代において、私たちができる最も重要なことは、「自分の心の安定を守ること」である。心が安定していれば、冷静に情報を判断し、必要な行動を選択できる。

逆に、心が疲弊していると、情報に振り回され、無力感や怒りに支配されやすくなる。

世界を変えるためにも、まずは自分の心を整えることが出発点になります

川崎市中原区にある中原こころのクリニックでは身近な問題から社会問題まで生活に及ぼす外的要因においても患者様と共有しながら治療を考えていきます

洋服・アクセサリー・身だしなみと心の調子:精神科の視点

1. 身だしなみが心の健康に与える基本的な影響

身だしなみを整えるという行為は、単に他者へのマナーや見た目を良くするためだけでなく、セルフケア(自己を大切にする行為)の中核をなすものとして、精神衛生に深く関わります。

1.1. 気分の切り替えと「モード」の導入

服装には、心理的な「スイッチ」を入れる役割があります。例えば、医師が白衣を着ることで診察モードに切り替わるように、特定の服装やアクセサリーを身につけることは、役割意識や行動意欲を高めます。

明るい色・好きな服: 気分が落ち込んでいる時に明るい色や気に入った服を選ぶことは、気分転換を促し、ポジティブな感情を引き出す効果(カラー心理学・ファッション心理学)が報告されています。

「勝負服」: 自信を持ちたい時や緊張する場面で着用する「勝負服」は、心理的な安定感や自己効力感(自分はできるという感覚)を高め、ストレスホルモン(コルチゾール)のレベルを下げる効果も示唆されています。

1.2. 自己肯定感と自己表現

服装は、内面を表現する手段(自己表現)です。「私はこういう服が好き」「これが私らしい」という自己の在り方を表現する行為は、自己肯定感の向上に直結します。

自分を大切にする行為: 身だしなみを整える、お気に入りの服やアクセサリーを選ぶ、といった行動そのものが「私は大切な存在だ」という無意識のメッセージを脳に送り、自己を肯定的に評価する姿勢を育みます。

外見の乱れが送るメッセージ: 逆に、身だしなみが乱れている状態が続くと、「自分を大事にできていない」という無意識のメッセージとして脳に届き、気持ちまで沈んでしまうことがあります。

2. 精神疾患と身だしなみの変化

精神科の診察では、患者さんの**身なり(身だしなみ、服装、整容)**は、精神状態を評価する上で重要な観察項目の一つです。身だしなみの変化は、心の不調を示すサインとなることがあります。

2.1. うつ病などの気分障害

身だしなみの低下: うつ病の症状の一つに意欲・気力の低下があります。洗顔、歯磨き、着替え、整髪といった日常的な整容動作がおっくうになり、身だしなみが疎かになることが多く見られます。これは、精神運動の抑制や、自己を構うエネルギーの欠如を反映しています。

清潔感の欠如: 極端な場合、何日も同じ服を着続けたり、入浴ができなくなったりすることもあり、これは重症度の指標の一つともなりえます。

2.2. 躁病・軽躁病(双極性障害)

過度な派手さ: 躁状態や軽躁状態では、気分高揚や衝動性・活動性の亢進が見られます。これに伴い、服装が極端に派手になったり、露出が増えたり、過度なアクセサリーを身につけたり、TPOにそぐわない奇抜なファッションになったりすることがあります。これは、自信過剰、判断力の低下、自己抑制の欠如を反映していることがあります。

浪費行動: 高価な服やアクセサリーを衝動的に大量に購入する浪費行動は、躁状態の重要なサインの一つです。

2.3. その他の精神疾患

統合失調症: 幻覚や妄想の影響、あるいは意欲の低下から、服装が極端に不潔になったり、季節や状況に合わない服装をすることがあります。

摂食障害: 体型に対する過度なこだわりから、体型を隠すために極端にだぶだぶの服を着たり、逆に自己のイメージを強調するような服装を選んだりすることもあります。

3. 身だしなみを活用したセルフケアとリハビリテーション

身だしなみを整えることは、精神的な不調からの回復や、安定した精神状態を維持するための有効なセルフケアおよびリハビリテーションの手法となり得ます。

3.1. 「整える習慣」の導入

小さな達成感: 髪をとかす、顔を洗う、お気に入りのリップを塗る、といった小さな整容行動を意識的に行うことは、「今日はこれをやり遂げた」という小さな達成感を生み、自己肯定感を高めます。

ドーパミン活性化: 身だしなみを整えることは、脳の自己肯定感ややる気に関連するエリアを活性化させ、ドーパミン(やる気ホルモン)の分泌を促すと言われています。

3.2. 衣服のお手入れによるメンタルケア

服装心理学の観点からは、服のお手入れの時間を持つことが心のケアにつながるとされます。

マインドフルネス: アイロンがけや服のブラッシングといった単純作業は、一種のマインドフルネス(「今、ここ」に意識を集中すること)となり、創造的な時間やリラックス効果をもたらします。

自己効力感の確認: 帰宅後に服の手入れをしながら、その日の「達成したこと」に意識を向けることは、自己効力感を再確認し、心と服を「再生」させる機会となります。

3.3. 環境との調和と対人関係

清潔感のある身だしなみは、周囲に好印象や信頼感を与え、円滑な対人関係の構築に役立ちます。

肯定的なフィードバック: 周囲からの肯定的なフィードバックは、着用者の気分をさらに上げ、社会的なストレスを軽減する効果があります。

医療現場の例: 精神科医や医療事務の服装が派手すぎず清潔感があることが求められるのは、患者に安心感を与え、治療への信頼感を高めるために非常に重要であるためです。

4. まとめ

洋服やアクセサリー、そして身だしなみは、私たちの心の状態を映し出す鏡であり、同時に心の状態を積極的に変えるツールでもあります。精神科の視点から見ると、身だしなみは単なる外見ではなく、自己愛、意欲、自己肯定感、社会適応能力といった精神機能の状態を反映する重要な指標であり、セルフケアやリハビリテーションの有効な介入点となりえます。

**「おしゃれを楽しむことはストレスを緩和し、心も体も元気にする」**ことにつながります。メンタルが不調な時こそ、無理のない範囲で、鏡を見て自分を整えることから始めるのは、自立した健康的な生活を送るための第一歩と言えるでしょう。

ファッションはメンタルにすごく良い! 3つの理由【精神科医・樺沢紫苑】

この動画は、ファッションがメンタルヘルスに良い3つの理由を精神科医が解説しており、心の調子と身だしなみの関係について理解を深める助けになります。樺沢先生はyou tubeや書籍で活躍されていらっしゃいますからご存知の方も多いかもしれません

メディアに出る精神科医やyahooコメンテーターはなぜか専門医ではない医師が多く精神科医が集まると誰なんだ?と話題になりますが、樺沢先生の著書は一般書でも研修医や学部生にも参考になる現在におけるきちんとした精神科の医師の先輩です

中原こころのクリニックでは気軽に皆様から武蔵小杉や川崎また溝の口よりご相談いただければ問題を抽出し一緒に考えるよう努力致します、当院の近隣にも武蔵小杉グランツリーや溝の口にはマルイの商業施設やラゾーナ川崎もあります。手持ちの服から気分を変えてみることもいいでしょう♪

認知行動療法が難しいときに改めて考える最初のステップ

人間がどうしても認知の修正が難しいと感じる時、その根本には様々な要因が絡み合っています。単なる「考え方の癖」ではなく、時にそれは深いトラウマや発達上の特性、あるいは精神疾患の症状として現れている場合があります。精神科医の視点から、この問題にアプローチする際、私たちは単に「考えを変えなさい」と指示するのではなく、より多角的な視点から、その人が認知を修正できるような土壌を整えることを目指します。

この長い道のりの第一歩として、最初にできることは、以下の3つの柱に集約されます。

認知の歪みを生む土台を理解する

修正の準備段階として、安全な場所を確保する

具体的な認知の「ひび」を入れる小さなステップを踏み出す

これらの柱について、さらに詳しく掘り下げていきましょう。

1. 認知の歪みを生む土台を理解する

認知の修正が難しいと感じる場合、その認知は単なる「思い込み」ではなく、その人にとっての現実であり、生き抜くためのサバイバル戦略として機能していることが多いです。この戦略が形成された背景を深く理解することが、最初の、そして最も重要なステップとなります。

トラウマと防衛機制

トラウマは、私たちの認知に深い影響を与えます。例えば、過去に裏切られた経験がある人は、「誰も信用できない」という認知を形成し、それが強力な防衛機制として機能します。この認知は、自分を再び傷つけられることから守るためのものです。

このような場合、「その考えは間違っている」と指摘しても、その人の防衛本能はさらに強固になります。なぜなら、その指摘は「あなたのサバイバル戦略は間違っている」と言っているように聞こえるからです。最初にすべきは、この防衛機制を否定せずに尊重することです。「そう考えるようになったのには、きっと辛い経験があったのですね」という共感的なアプローチが不可欠です。

この段階では、認知の内容を修正しようとするのではなく、その認知が生まれた背景に光を当てることが目的です。背景を理解することで、その認知が単なるネガティブな考えではなく、その人の過去の苦痛と結びついた、意味のあるものであることを示唆します。

発達上の特性

自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠陥・多動症(ADHD)などの発達上の特性も、特定の認知の硬直性に関係していることがあります。ASDの人は、定型発達の人とは異なる方法で世界を認識し、パターンやルールに強く固執する傾向があります。これは、世界を予測可能で安全なものにするための彼らの方法です。

この特性を持つ人に対しては、「柔軟な考え方」を促すこと自体が、彼らの安全な世界観を揺るがす脅威となり得ます。そのため、まずは彼らの認知スタイルを理解し、尊重することが重要です。彼らにとっての「正しい」認知がどのように形成されたのかを共に探求し、その認知が彼らの生活の中でどのように機能しているのかを明らかにします。

精神疾患の症状としての認知の歪み

うつ病や不安障害、統合失調症などの精神疾患は、直接的に認知の歪み(認知の硬直性)を引き起こすことがあります。

うつ病:自己肯定感の低下からくる「私は価値がない」「何もできない」といったネガティブな認知は、単なる考え方ではなく、脳内の神経伝達物質の不均衡によって生じる症状です。

強迫性障害:特定の思考(強迫観念)が頭から離れず、それを打ち消すための行為(強迫行為)を繰り返すのは、脳の特定の部位の過活動と関連しています。

統合失調症:妄想や幻覚といった現実と乖離した認知は、脳の機能障害からくるものです。

このような場合、心理療法だけでは限界があります。根本的な認知の修正を試みる前に、まずは薬物療法や環境調整によって、脳の状態を安定させることが不可欠です。脳の状態が安定することで、初めて、認知の修正に向けた心理的なアプローチが効果を発揮する土壌が整います。

2. 修正の準備段階として、安全な場所を確保する

認知の修正は、自己の根幹を揺るがす行為です。この困難なプロセスを始めるには、心理的安全性が確保された環境が不可欠です。精神科医やカウンセラーとの関係性において、この安全性をどう作り上げるかが非常に重要です。

無条件の受容と共感

クライアントの考えや感情を批判せず、無条件に受け入れることが、何よりも重要です。彼らがどんなに非合理的だと思える認知を持っていたとしても、それを否定せず、「そういう風に感じるんですね」「その考えに至るのには、何か理由があるはずですね」と、その認知の存在自体を認めることから始めます。

この受容的な姿勢は、「あなたは、どんな考えを持っていても、この場所では安全だ」というメッセージを伝えます。これにより、クライアントは、自分の内面を安心して開示できるようになり、認知の修正という危険な領域に踏み出す勇気を持つことができます。

協働的な関係性の構築

精神科医とクライアントの関係は、「先生と生徒」ではなく、「旅の仲間」であるべきです。認知の修正は、医師が一方的に正解を教えるものではなく、クライアントと医師が協力して、より良い生き方を共に探求するプロセスです。

「一緒にあなたの考え方の癖を探してみませんか?」「この考えが、あなたにとって本当に役立っているのか、一緒に考えてみましょう」といった、協働的で対等な言葉を使います。このアプローチは、クライアントに「強制されている」という感覚を与えず、彼ら自身の自律性を尊重します。

小さな成功体験の積み重ね

認知の修正は、一足飛びにできるものではありません。大きな目標を掲げるのではなく、現実的で小さな成功体験を積み重ねることが重要です。

例えば、「自分は人前で話すのが怖い」という認知を持つ人に対し、いきなりスピーチをさせるのではなく、「挨拶をする」「質問に答える」といった、より小さなステップから始めます。そして、その小さな成功を意識的に評価し、肯定します。「さっきの挨拶、とても自然でしたね」「質問に答えてくれたこと、素晴らしい進歩です」といったフィードバックは、クライアントの自己効力感(自分にはできるという感覚)を高め、より大きな挑戦へのモチベーションにつながります。

3. 具体的な認知の「ひび」を入れる小さなステップを踏み出す

安全な土台が整った後、初めて具体的な認知の修正に向けた働きかけを開始します。この段階では、従来の認知行動療法(CBT)のアプローチを、より優しく、強制力のない形で適用します。

認知の「ラベリング」

認知を「正しいか間違いか」で判断するのではなく、「どのような種類の認知か」という視点で観察します。

自動思考:頭にふと浮かぶ考え。

スキーマ:過去の経験から形成された、より根深い信念。

認知の歪み:all or nothing思考(白か黒か)、過剰な一般化、心のフィルターなど。

クライアントに、自分の思考を「これは『all or nothing思考』だね」「これは『過剰な一般化』かもしれないね」とラベリングすることを教えます。これにより、自分の思考と自分自身を切り離して客観視できるようになります。「私はダメな人間だ」というスキーマ(信念)と、「私はダメな人間だという思考が浮かんでいる」という客観視は、全く異なります。後者の視点を持つことで、思考に支配されず、それを観察し、距離を置くことができるようになります。

ソクラテス式質問法(Socratic Questioning)

これは、クライアント自身に答えを見つけさせるための質問です。答えを教えるのではなく、質問を通じて、彼らの認知の矛盾や非合理的な部分に彼ら自身が気づくように導きます。

「本当に100%そう言えますか?」:「誰も私のことを好きではない」という認知に対し、「本当に一人も、ですか?」と問う。

「もし、親友が同じ状況にあったら、何とアドバイスしますか?」:「私は何もできない」という認知に対し、自分以外の視点から見つめ直すことを促す。

「この考えが本当だとしたら、何が一番怖いですか?」:その認知の根底にある恐怖を探る。

これらの質問は、クライアントの認知に直接対抗するのではなく、「問いかけ」という形で小さな「ひび」を入れていきます。この「ひび」から、クライアントは自分の認知が絶対的な真実ではないかもしれない、と自ら気づき始めます。

「別の見方」を提示する

クライアントの認知を否定せず、しかし、もう一つの可能性を静かに提示します。

「『私は失敗ばかりだ』と感じるんですね。でも、成功したことも、過去にありませんでしたか?」

「『このプロジェクトは絶対に失敗する』と感じるんですね。もし、失敗しなかったとしたら、どんな要因が考えられますか?」

このアプローチは、クライアントの認知を尊重しつつ、別の視点が存在することを優しく示唆します。この「別の見方」は、あくまで可能性の一つであり、クライアントがそれを受け入れるか否かは彼ら自身の判断に委ねられます。

まとめ

認知の修正が難しい人に対し、精神科の視点から最初にできることは、「その人の認知を支配する背景を理解し、修正のための安全な土壌を整えること」に尽きます。

認知の背景にあるトラウマ、発達特性、精神疾患を理解する。

安全な関係性(無条件の受容、協働性)を築き、小さな成功体験を積み重ねる。

具体的な認知の修正は、ソクラテス式質問法などを使い、クライアント自身が気づきを得るのを支援する。

認知の修正は、「あなたの考えは間違っている」という上からの指示ではなく、「あなたの考えは、あなたの人生を守るために生まれた大切なもの。でも、もしかしたら、もう違う方法を選んでもいい時かもしれません」という、共感と協働のプロセスです。中原こころのクリニックに受診されることが認知の認知や誰かと共有する安全な場また、共同したひび入れ作業となれば幸いです

これは時間と忍耐を要する、長く困難な旅ですが、この第一歩を丁寧に進めることが、最終的にその人が自らの内面と向き合い、より自由に生きるための大きな一歩となります。

このプロセス全体を通して、私たちが最も重視すべきは、クライアントの主体性です。私たちは、彼らが自身の心の地図を再描画するためのコンパスを提供するだけであり、最終的にどの道を選ぶかは、彼ら自身に委ねられます。この信頼こそが、心の変容を可能にする最大の力なのです。中原こころのクリニックでは対人関係療法を中心とした精神及び薬物療法を行っておりますが心理療法を希望の方には適切なカウンセリングルームをご紹介しております

温度変化が心や身体のもたらす影響

急激な気温低下は、私たちの心に「不安」「抑うつ」「無気力」といった心理的変化をもたらします。これは単なる気分の問題ではなく、自律神経や脳内ホルモンの変動による生理的な反応であり、精神科医の視点からも重要なテーマです。

1. 急激な気温低下が心に与える影響

急な寒さにさらされたとき、私たちの体はまず生理的に反応します。寒さに対抗するために交感神経が活性化し、血管が収縮、筋肉が緊張し、心拍数が上がります。これは「戦うか逃げるか」のストレス反応であり、短期的には有効ですが、長期化すると心身に負担をかけます。

また、寒冷環境では日照時間が短くなり、脳内のセロトニン(幸福ホルモン)の合成が減少します。セロトニンは気分の安定に関与しており、その減少は抑うつ傾向を強めます。さらに、日照不足はメラトニン(睡眠ホルモン)の分泌を増加させ、昼間でも眠気や無気力感を引き起こします。

2. 精神疾患との関連

精神科の臨床では、急激な気温低下が以下のような症状や疾患の悪化要因となることが知られています。

•            季節性うつ病(SAD):冬季に発症しやすく、セロトニン低下とメラトニン過剰が主因。過眠・過食・無気力が特徴です。

•            一般的なうつ病:寒さによる引きこもりや孤独感が、既存のうつ症状を悪化させることがあります。

•            不安障害・強迫性障害(OCD):寒冷環境による不安定さが、安心感を求める儀式行為を強化する傾向があります。

•            認知症(高齢者):夜間せん妄や見当識障害が冬季に増悪しやすく、寒さによる行動異常が目立ちます。

3. 「二季うつ」という現代的ストレス

近年では「春と秋がなくなった」と感じる人が増え、季節の緩やかな移行が失われつつあります。このような急激な気候変化に心身が適応できずに生じるメンタル不調は「二季うつ」と呼ばれます。これは、体内時計(概日リズム)が季節の変化に追いつけず、心と身体が“季節から取り残される”状態です。

4. 精神科的な対処法と予防策

精神科医の立場からは、以下のような対策が推奨されます。

•            光療法:日照不足によるセロトニン低下を補うため、朝に強い光を浴びる。

•            規則正しい生活:睡眠・食事・運動のリズムを整えることで、自律神経の安定を図る。

•            ビタミンDの補給:日照不足によるビタミンD欠乏はうつ症状と関連があるため、食事やサプリで補う。

•            心理的サポート:気象病や季節性うつに対する理解を深め、必要に応じてカウンセリングや薬物療法を行う。

5. おわりに

急激な気温の変化は、私たちの心に確かな影響を与えます。それは「気のせい」ではなく、科学的根拠に基づいた生理的・心理的反応です。一方でビタミンDは脂溶性の無機塩類でありますので用法や容量を守り過剰症にならないことも大切です。自分の心の変化に気づき、適切に対処することが、冬のメンタルヘルスを守る第一歩です。

時間が待てないときの気持ちを保つには

「待つことの意味づけ」と「脳の働きへの理解」が鍵です。精神科的アプローチでは、認知行動療法やマインドフルネスが有効とされています。

私たちは日常生活の中で「待つ」場面に頻繁に直面します。診察の順番、返信の来ないメッセージ、結果が出るまでの時間など、待つことに伴う不安や焦燥感は誰にでも起こり得ます。しかし、精神科的な視点から見ると、「待てない」という感覚には脳の働きや心理的背景が深く関係しています。中原こころのクリニックでもなるべくお待ちご負担が少なくなるよう努力を心がけて参ります

「待てない」心理のメカニズム

銀座泰明クリニックによると、「待つ」行為には以下のような心理的要素が含まれます:

•            報酬予測(ドーパミン系):期待する結果が得られると予測すると、脳内で快感が生じます。逆に、報酬が遅れると不快感が強まります。

•            不確実性耐性:結果がいつ・どう出るか分からない状況に対するストレス耐性が必要です。

•            認知的制御(前頭前皮質):衝動的に行動したくなる気持ちを抑え、「待つこと」に意味を見出す力です。

•            意味づけと内在化:「この待ちには価値がある」と認知的再構成を行うことで、感情の安定につながります。

これらのメカニズムがうまく働かないと、「待てない」「イライラする」「不安になる」といった感情が強くなります。

「待てない」人の特徴と背景

待つことが苦手な人には、以下のような傾向が見られます:

•            衝動性が高い(ADHD傾向)

•            不確実性に弱い(不安障害や過去のトラウマ)

•            即時報酬型(長期的視点より「今すぐ」の満足を優先)

•            自己肯定感が低い(「待たれる価値があるか」に疑問を抱く)

•            他者依存性が高い(相手の反応に過度に左右される)

これらの傾向がある場合、精神科的な支援が有効です。

精神科的アプローチ:気持ちの保ち方

1. 認知行動療法(CBT)

認知行動療法では、「待つこと」に対する否定的な認知を再構成します。

•            「待つのが苦しい」→「待つことで自分の忍耐力が育つ」

•            「結果が遅いのは不安」→「時間をかけることで質が高まる可能性がある」

このように、思考の枠組みを変えることで感情の安定を図ります。

2. マインドフルネス

「今この瞬間」に意識を向けることで、未来への不安や過去の後悔から距離を取る方法です。

•            呼吸に集中する

•            身体感覚を観察する

•            思考を評価せずに流す

これにより、待つ時間を「苦痛」ではなく「静けさ」として捉えることが可能になります。

3. 環境調整と行動療法

•            待ち時間にできる「代替行動」を用意する(読書、音楽、軽い運動など)

•            スケジュールに余裕を持たせることで「待つこと」への心理的負担を軽減

•            他者との約束に「時間の幅」を持たせる(例:15分〜30分の間に開始)

疾患との関連性

「待てない」感覚が強く、日常生活に支障をきたす場合は、以下の疾患が背景にある可能性があります:

•            注意欠如・多動性障害(ADHD):衝動性や集中力の欠如が特徴

•            不安障害:過度な心配や予期不安が強く、待つことが苦痛になる

•            適応障害:ストレスに対する過剰反応で、落ち着きがなくなる

このような場合は、精神科での診断と治療が推奨されます。

まとめ

「待てない」気持ちは、脳の働きや心理的傾向に深く関係しています。精神科的には、認知行動療法やマインドフルネス、環境調整などが有効です。自分の傾向を理解し、待つ時間に意味を見出すことで、心の安定を保つことができます。

子育てをしている親御さんの感情の変化についての考察

子育て中の感情の揺らぎは「異常」ではなく、脳の疲労や環境要因による「自然な反応」です。精神科医の視点からは、自己理解とセルフケア、そして支援の活用が重要とされています。

子育てにおいて親が感じるイライラや不安、自己嫌悪といった感情の揺らぎは、多くの家庭で見られるごく自然な現象です。精神科医や児童精神科医の論文や臨床経験に基づく助言を以下にまとめます。

感情の揺らぎの背景と脳科学的理解

•            前頭前野の疲労:感情のコントロールを担う脳の前頭前野は、睡眠不足やストレス、自己時間の欠如などで機能が低下しやすくなります。これにより、怒りやすくなったり、冷静な判断が難しくなったりします。

•            育児ストレスの蓄積:慢性的な疲労や孤立感は、感情の起伏を激しくし、親の精神的な安定を脅かします。

精神科医が勧める6つの対応法

1.           感情の理由を理解する:怒りやイライラには必ず背景があると認識し、自分を責めすぎない。

2.           育てられ方の影響を知る:自分の親からのしつけが、無意識に現在の子育てに影響している可能性を見つめ直す。

3.           「今の自分」を受け入れる:完璧な親である必要はなく、感情の揺れも含めて自分を認める。

4.           自分のケアを優先する:睡眠・食事・休息を確保し、心身の余裕を取り戻す。

5.           「怒りの前兆」に気づく:自分の体や心のサインに敏感になり、早めに対処する。

6.           信頼できる人に話す:感情を言語化し、共感を得ることでストレスを軽減する。

 精神疾患を抱える親への支援の視点

•            精神疾患を持つ親は、子どもへの反応が鈍くなったり、過剰になったりすることがあります。これにより、子どもが不安定な環境に置かれるリスクが高まります。

•            支援者(精神科医・保育士・福祉職)との連携が重要で、親の精神状態だけでなく、家庭全体の状況を把握しながら支援する必要があります。

•            子どもにとっての「安心できる大人」の存在が、親の感情の揺らぎによる影響を緩和する鍵となります。

 実践的なアプローチ

•            マインドフルネスや呼吸法:感情の高ぶりを和らげる即効性のある方法として推奨されています。

•            ペアレント・トレーニング(PCITなど):親子関係を改善し、親のストレスを軽減する心理的支援法です。加茂登志子先生の本を読むこともいいことでしょう

•            地域資源の活用:児童相談所、保健センター、メンタルクリニックなどの支援機関を積極的に利用することが推奨されます。

急激な気温低下が精神に与える影響

1. 生理学的メカニズム

•            セロトニン代謝の低下

寒冷環境では日照時間が短くなり、セロトニンの合成が減少します。セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、気分の安定に重要な役割を果たします。これが減ることで、抑うつ傾向が強まります。

•            メラトニンの過剰分泌

日照不足によりメラトニンの分泌が増加し、睡眠リズムが乱れます。日中の倦怠感や無気力感が強まり、活動性が低下します。

•            交感神経の過剰活性化

寒さに対抗するために交感神経が優位になり、血管収縮や神経緊張が起こります。これが不安感や焦燥感を助長する要因となります。

•            ビタミンD不足

日照不足はビタミンDの合成にも影響し、免疫機能や脳神経の調節に支障をきたします。ビタミンD不足はうつ症状との関連が指摘されています。

 関連する精神疾患と症状

季節性うつ病(SAD)

冬季に発症しやすく、日照不足によるセロトニン低下とメラトニン過剰が主因です。気分の落ち込み、過眠、過食、無気力などが特徴です。

一般的なうつ病

寒さによる引きこもりや孤独感、身体的不調が気分の低下を促進し、既存のうつ症状を悪化させることがあります。

不安障害・強迫性障害(OCD)

寒冷環境による不安定さが、安心感を求める儀式行為(反復行動)を強化する傾向があります。

統合失調症

生活リズムの乱れや脳温の変化がストレスを増大させ、幻覚や妄想の増加につながる可能性があります。

認知症(高齢者)

冬季には夜間せん妄や見当識障害が増悪しやすく、寒さによる行動異常が目立ちます。

🌪️気象病との関連

「気象病」とは、気温・気圧・湿度などの変化によって起こる心身の不調の総称です。急激な気温低下は、気圧の変化とともに自律神経を乱し、以下のような症状を引き起こします:

•            頭痛、倦怠感、集中力低下

•            気分の落ち込み、不安感

•            不眠や過眠、イライラ

自律神経の乱れは脳内ホルモン(セロトニン、ドーパミン)の分泌にも影響し、精神的な不安定さを助長します。

 精神科的対策と予防

1. 光療法(ライトセラピー)

日照不足によるセロトニン低下を補うため、人工的な強い光を浴びる治療法。季節性うつ病に有効とされ、朝の時間帯に30分程度行うのが推奨されています。

2. 規則正しい生活リズム

寒さで活動性が低下しがちですが、意識的に起床・就寝時間を一定に保ち、食事・運動・入浴などの生活習慣を整えることが重要です。

3. 適度な運動

運動はセロトニンやドーパミンの分泌を促進し、気分の安定に寄与します。屋内でもできるストレッチやヨガなどが有効です。

4. 栄養管理

ビタミンDを含む食品(魚類、卵、きのこ類)を積極的に摂取することで、精神的な安定に役立ちます。

5. 社会的つながりの維持

寒さによる孤立を防ぐため、家族や友人とのコミュニケーションを意識的に取ることが大切です。オンラインでも良いので、つながりを保つ工夫をしましょう。

まとめ

春と秋は季節が変わりやすいものです

急激な気温の低下は、精神的健康に多面的な影響を及ぼします。特に日照不足、自律神経の乱れ、ホルモンバランスの変化が精神症状の引き金となりやすく、季節性うつ病や不安障害などのリスクが高まります。精神科的には、光療法や生活習慣の改善、社会的支援の活用などが予防と対策として有効です。寒さが厳しくなる季節には、心のケアにも意識を向けることが、健やかな生活の鍵となります。