抗うつ薬における増強療法(適応外処方におけるブレキシプラゾール)

自分の不調は人に相談しにくく抱えてしまうものではないでしょうか

ソーシャルメディアを利用し、ご自身の不調が抑うつ状態にあるのでないかと疑問を思い受診される患者さまはたくさんいらっしゃいます。チェックのようなものはWeb上に無数にあり国際疾病分類(ICD-10or11)やアメリカ精神医学会に準拠したものまた、自己解釈を加えたものなど無数にあります。私個人は診断基準を重要なものと考え、診断し治療の要不要を患者様と共有する医療を心がけております。2013年には「4大疾病」がん、脳卒中、糖尿病、心筋梗塞に加えて精神疾患(うつ病等)が加えられ「5大疾病」となっております。精神疾患は厚生労働省が対策に重点的に取り組む疾患になりました1)

世界精神保健日本調査セカンド、セカンドという表現は第2回目の調査であり、2013-2015 年度までに、関東地方、東日本、西日本、関東地方補充調査を行い、2450 人に 面接調査と自己記入式調査票による調査にて日本人の精神疾患有病率を検出した結果によります。DSM-IV-TR 精神障害12か月有病率は、大うつ病性障害(2.7%)、社交恐怖(1.0%)、アルコール乱用(1.0%が高かった。過去12か月間に精神障害を経験した者のうち19.3%が精神科医を、12.6%が一般医を受診し医師受診率は合計で 23.0%であった。2)

疫学調査は臨床医にとって診断の偏りを補正する要素もあり可能性が高い疾病から患者さまが不利益とならないよう検討するうえにおいて有益な情報であり、また疾病が併存していることも考慮しながら診断、治療にあたらなくてはならない。この調査によれば疾患を有するものの受診に医療機関至った方は4人に1人であり精神科に関しては8人に一人である。

そのため、専門外の内科の先生が何らかの抗不安薬や睡眠薬を処方されることは少なくない。ご高齢の方に依存性が高いお薬や認知機能低下を伴う副作用をもつものが漫然と処方されていることも多い。現状日本の医療は自由標榜性に基づいて医師の専門性が見えにくいこととなっている。患者様は外来通院治療ならびに特に治療がブラックボックスとなりやすい在宅医療に関しては医師が何科の専門医であり、他科の処方をされることについても確認をすることがいいのではないかと考えている。

5大疾病に入る精神疾患のうち1番有病率が高いうつ病(気分障害)

個人的には内因性の疾患ではあるものの外的要因によりうつ状態になる影響をうける側面もあり誰しもが生涯において経験してもおかしくない疾患ではないでしょうか。

診断はきちんとした診断基準のスケールに合わせて行いますが、その後の治療はうつ状態を悪化要因となりえる外的環境の改善や休養、薬物療法及び、心理療法があります。

日本におけるうつ病治療については日本うつ病学会のガイドラインが読みやすく、治療中の方も適切な医療を提供されているのか評価しやすいものであるのでご覧いただければ幸いです。

ガイドラインは治療方針の基本骨格ではございますが、患者様も現在はインターネット上で閲覧可能なものが多く、私たち医療者が最低限の正しい医療を提供できているかといった指針かつ、治療が奏功していない場合はガイドラインを超えた新しい知見に基づいて治療をご提案することが私たち医療者に求められており、この観点からも患者さまにおきましてはすべての診療科目にて専門性をご確認のうえで受診を検討いていただきたいと考えております。では、抗うつ薬がなかなか効果に乏しい患者さまにおける新しい論文を供覧しましょう。

Optimal dose of brexpiprazole for augmentation therapy of antidepressant-refractory depression: A systematic review and dose-effect meta-analysis

抗うつ薬抵抗性うつ病の増強療法のためのブレキシプラゾールの最適用量:系統的レビューと用量効果メタアナリシス4)

AIMS : To find the optimal dosage of brexpiprazole as augmentation of other antidepressants.

目的:他の抗うつ薬の増強療法としてのブレキシプラゾールの最適な投与量を見つけること

METHODS : We searched multiple electronic databases (from inception to September 16th, 2021) to identify double-blind, randomized placebo-controlled fixed-dose trials evaluating brexpiprazole augmentation therapy in adults (≥18 years old, both genders) with major depressive disorder not adequately responding to one or more antidepressant treatment. Our outcomes of interest at 8 weeks (range 4-12 weeks) were efficacy (treatment response defined as 50% or greater reduction in depression severity), tolerability (dropouts due to adverse effects) and acceptability (dropouts for any reason). We performed a random-effects, one-stage dose-effect meta-analysis with restricted cubic splines

方法:複数の電子データベース(開始から2021年9月16日まで)を検索して、大うつ病性障害のない成人(18歳以上、両性)におけるブレキシプラゾール増強療法を評価する二重盲検ランダム化プラセボ対照固定用量試験を特定した。 1つまたは複数の抗うつ薬治療に適切に反応する。 8週間(4〜12週間の範囲)での関心のある結果は、有効性(うつ病の重症度の50%以上の減少として定義される治療反応)、忍容性(副作用による脱落)および受容性(何らかの理由による脱落)であった。制限された3次スプラインを使用して、ランダム効果、1段階の用量効果メタアナリシスを実行した

RESULTS : Six studies met the inclusion criteria, including 1671 participants in total. The dose-efficacy curve showed an increase up to doses around 2 mg (odds ratio [OR] 1.52, 95% confidence interval [CI] 1.12-2.06) and then a decreasing trend through the higher licensed dose up to 3 mg (OR 1.40, 95% CI 0.95-2.08). The shape of the dose-tolerability curve was comparable to that of the efficacy and the dose-acceptability curve showed a monotonic increasing trend but both had wide confidence bands

結果:合計1671人の参加者を含む、6つの研究が選択基準を満たしました。用量有効性曲線は、約2 mgの用量まで増加し(オッズ比[OR] 1.52、95%信頼区間[CI] 1.12-2.06)、その後、3 mgまでのより高い認可用量(OR 1.40)を通じて減少傾向を示しました。95%CI 0.95-2.08)。用量許容曲線の形状は有効性の形状に匹敵し、用量許容曲線は単調な増加傾向を示しましたが、両方とも広い信頼帯を持っていた

CONCLUSIONS : One to two milligrams of brexpiprazole as augmentation treatment may achieve an optimal balance between efficacy, tolerability, and acceptability in the acute treatment of antidepressant-refractory depression. However, the small number of included studies limit the reliability of the results. Further research is required to validate the findings

結論:増強治療としての1〜2ミリグラムのブレキシプラゾールは、抗うつ薬抵抗性うつ病の急性期治療における有効性、忍容性、および受容性の間の最適なバランスを達成する可能性があります。ただし、含まれる研究の数が少ないため、結果の信頼性が制限されます。

調査結果を検証するには、さらなる調査が必要ではあるものの適応外処方であるブレキシプラゾールが難治性のうつ病の治療に対する増強療法として一定の評価を得たと考えてもいいものでしょう。PCNは日本の学術雑誌でありますが、2022年度は高いIFを獲得し世界的評価も高まっている学術誌でもあります。優秀な研究者のおかげで臨床は成り立っているので、感謝の思いしかありません。

  1.  1)厚生労働省;地域医療の基本方針となる医療計画 2012
  2.  2)川上憲人ら;Ⅱ有病率及び受診行動,世界精神保健日本調査セカンド, 精神疾患の有病   率等に関する大規模疫学調査研究,WMHJ2、2013-2016
  3.  3)日本うつ病学会;「日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅱ 大うつ病性障害」7.24.2019
  4.  4)Yuki Furukawa et al; Optimal dose of brexpiprazole for augmentation therapy of antidepressant-refractory depression: A systematic review and dose-effect meta-analysis. Psychiatry and clinical neurosciences. 2022 Jun 18; doi: 10.1111/pcn.13438.

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