PTSDとは米国精神医学会診断統計マニュアル第5版(DSM-5)の基準によれば、PTSD(心的外傷後ストレス障害Post-Traumatic Stress Disorder)とは、実際にまたは危うく死ぬ、深刻な怪我を負う、性的暴力など、精神的衝撃を受けるトラウマ(心的外傷)体験に晒されたことで生じる、特徴的なストレス症状群のことをさします。
出来事の例としては、災害、暴力、深刻な性被害、重度事故、戦闘、虐待などが挙げられます。そのような出来事に他人が巻き込まれるのを目撃することや、家族や親しい者が巻き込まれたのを知ることもトラウマ体験となります。また災害救援者の体験もトラウマと成り得ます。主な症状を以下に列挙します
1.侵入的回想
トラウマとなった出来事に関する不快で苦痛な記憶が突然蘇ってきたり、悪夢として反復されます。また思い出したときに気持ちが動揺したり、身体生理的反応(動悸や発汗)を伴います。
2.回避症状
出来事に関して思い出したり考えたりすることを極力避けようしたり、思い出させる人物、事物、状況や会話を回避します。
3.認知と気分の陰性変化
否定的な認知、興味や関心の喪失、周囲との疎隔感や孤立感を感じ、陽性の感情(幸福、愛情など)がもてなくなります。
4. 覚醒度と反応性の著しい変化
いらいら感、無謀または自己破壊的行動、過剰な警戒心、ちょっとした刺激にもひどくビクッとするような驚愕反応、集中困難、睡眠障害がみられます。
上記の症状が1か月持続し、それにより顕著な苦痛感や、社会生活や日常生活の機能に支障をきたしている場合、医学的にPTSDと診断されます1)
外傷的体験から1か月以内にPTSD様の症状が認められる場合は暫定的に急性ストレス障害(Acute Stress Disorder: ASD)に診断基準が設けられており2)、受傷起点からの症状までの経時的変化を追いながら少しでも早く診断及び治療に取り組むことが求められます。
また、PTSDの評価尺度としてPTSD評価尺度(IES-R)が日本トラウマストレス学会ホームページ上からオープンソースとしてご参照ください
では、新しい論文をご紹介させてください
海外ではPTSDに関連する睡眠障害及び悪夢にたいしてα1遮断薬プラゾシンを使用するケースがある。Paiva氏らはPTSDに対してプラゾシンの有効性を検討するシステマティックレビューを行った3)
【方法】
Pubmed・EMBASE・OVID・Cochlane Libraryから抽出された168件の研究から条件を満たした85件に対して質的統合を行い47件にシステマティックレビュー対象とした。
【結果】ランダム化比較試験は7件含まれ、2件はプラゾシンの有効性が示されず残る5件に有効性が示された。システマティックレビューの結果はほぼすべての試験で主に不眠症状「悪夢や夜間徘徊」に対する有効性が確認された。
【結語】プラゾシンはPTSD患者にみられる過覚醒状態に対し、α1受容体において、ノルアドレナリンに拮抗し、アドレナリン作動性神経の影響を遮断したとみられる。プラゾシンの特性を活かした処方によりPTSD症状に対する有効性がより明確になる可能性を示した。
α1遮断薬は喘息を悪化させる恐れがあります。喘息に限らずアレルギーをお持ちの方も要注意かと思われます。その為、すべてのPTSD患者様に適応とはならず、また日本においては適応外処方であることについて理解頂く必要も御座います。またノルアドレナリンに拮抗作用がある為、SNRI作用をもつお薬との併用は効果を相反させてしまいます。解熱鎮痛剤と身体を温める漢方薬を併用する状態と同じですね
当院では既存疾患を考慮しながらPTSDの遷延化された苦痛や不安、うつ状態への治療を模索していきたいと考えております。トラウマの解釈も広義の意味で解釈し円滑な生活が送れる支援をして参ります。
参考文献
1) 一般社団法人日本トラウマティックストレス学会ホームページより抜粋
2) DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル
3) Henrique S.Palva University of Sao Palo et al: Psychiatry Investing 2021 18 365-372
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